キーを差し込まなくてもクルマのドアの開け閉めができるスマートエントリーシステム。その仕組みを巧みに利用して、クルマを盗む「リレーアタック」という手口が広まりつつある。
しかも、盗難に用いる装置は数千円程度で作れてしまうというから驚きだ。一体、どんな手口なのか? 防ぐ方法はあるのか? その実態に迫る!
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スマートエントリーシステムは、カギであるスマートキーとクルマが絶えず電波を送受信している。双方の電子IDが一致して初めてドアノブに手を触れるなどしての解錠や施錠、それにエンジンの始動ができるのだ。
いちいちキーを差し込む手間が省けることから、搭載されるクルマは増える一方で、今や高級車から軽まで新車の3台に2台は装備されている。ところが、このシステムの隙を突いてクルマを盗む新たな手口が明らかになり、関係者を戦々恐々とさせている。
カーセキュリティ用品などの販売や取りつけを行なうエムアイティーガレージの寺岡宏一社長がこう話す。
「昨年1月、愛知県警の車両盗難担当者から最新の盗難手口について説明を受けました。クルマは無傷なのに車内のものを盗られる事件が頻発していて、どうやらスマートキーの仕組みを利用した『リレーアタック』ではないかというのです。同様の手口は、ヨーロッパで数年前から話題になっています。それが、いよいよ国内の犯罪グループによって使われ始めたかもしれないという内容でした」
手口の詳細はこうだ。
「犯行はふたり以上で行なわれます。犯人のひとりが、電波の増幅と送信ができる小型の装置(中継器)を隠し持って、クルマを離れたドライバーに近寄ります。スマートキーから出る微弱な電波をキャッチしたらすかさず増幅して飛ばし、もうひとりの犯人はクルマのそばで待機しながら別の装置でその電波を受信。そのままドアノブに手をかざすなどすれば、ドライバーのスマートキーだとクルマは判断して解錠してしまうのです。エンジンもかかります」(寺岡氏)
リレーアタックと呼ばれるゆえんは、電波を中継(リレー)して攻撃(アタック)を仕掛けるからだ。スマートキーの電波は暗号化されていて解読はほぼ不可能だが、この手法は電波を中継するだけなので、その必要はない。
自動車メーカーのセキュリティ対策に関わるSBDオートモーティブ日本の杉木昭郎(あきお)氏によれば、リレーアタックの被害の実態をつかむのは容易ではなさそうだ。
「痕跡が残らないため特定するのが非常に困難なのですが、防犯ビデオの映像などからリレーアタックによる盗難が起きているといわれています。スマートキーを玄関や窓際に置くのも危険です。そこから電波を盗まれ、家の庭に止めたクルマが盗難されてしまうリスクもあるからです」(杉木氏)
こんな報告もある。昨年には、ドイツ自動車連盟(ADAC)が実証実験を行ない、19の自動車メーカーの24車種がリレーアタックを受ける危険性があると指摘。この中にはトヨタ、日産、ホンダ、三菱、マツダ車も含まれているのだ!
★リレーアタックの装置は、大学生でも作れるレベル!? 『週刊プレイボーイ』37号(8月28日発売)では、デモ装置を作った中国のセキュリティ会社に取材。その危険性と自衛策に迫る!
(取材・文・撮影/桐島 瞬 撮影/村上庄吾)