鳥貴族は全国に567店舗(今年7月末時点)。全品280円均一を掲げて成長し、昨年4月に東証一部上場を果たした 鳥貴族は全国に567店舗(今年7月末時点)。全品280円均一を掲げて成長し、昨年4月に東証一部上場を果たした

全品280円均一。サイフに優しい低価格でサラリーマンや学生から熱狂的な支持を得てきた焼き鳥居酒屋チェーン大手の「鳥貴族」が10月1日からメニューを値上げすることになった。

フード、ドリンク全品が298円に、2時間飲み放題・食べ放題2800円の人気コース「28とりパーティー」も2980円(いずれも税別)の「298とりパーティー」になる。

鳥貴族が大阪で第1号店をオープンしたのは1985年のこと。その4年後の89年に「全品280円均一」を打ち出して以来、なんと28年間もこのロープライスを死守してきた。経営が苦しくなると値上げでしのぐ外食店が多いなか、この一徹ぶりは表彰モノだった。

その鳥貴族が値上げに追い込まれるとはーー。一体、何があったのか?

「人手不足で人件費が上がっていることが大きい。都内のラーメン店などは、時給1200円でもアルバイトが集まらないほどです。それに加え、このところの天候不良などで食材の仕入れ価格も高騰してしまった。箸などの備品も値上がりしています。

こうしたことが重なり、低価格を売りに全国567店舗(今年7月末時点)まで成長した鳥貴族も、ついに値上げに踏み切らざるをえなくなったのです」(フードジャーナリスト・はんつ遠藤氏)

値上げをした外食チェーン店が勢いを失うケースは珍しくない。となると、鳥貴族もこのまま沈んでしまうのか? この問いに、遠藤氏はこう首を振る。

「いえいえ、さすが鳥貴族です。実は、今回の値上げは『ここしかない!』というほど、絶妙なタイミングで公表されているんです。確かな企業戦略に裏打ちされた値上げといえます」

どういうこと?

「消費税10%アップが19年10月に迫っています。そのとき、ほとんどの飲食店は値上げに動くはずです。でも、ここでひと足先に価格を上げておけば、鳥貴族だけは増税時でも価格を据え置きにできる。すると鳥貴族の企業イメージは一気によくなり、業績がアップする…というわけです。また一方で、ライバル企業や消費者の動向を見定めながら、増税時に再度の値上げに動くという選択肢も残せる。鳥貴族の経営陣はよく考えていますよ」(遠藤氏)

値上げしたといっても、まだ200円台

 ボリューム感のある焼き鳥(2本)を長年おなじみの“鳥貴族価格”280円(税別)で食べられるのは9月いっぱい。でも、18円値上げしてもまだまだ安いぞ! ボリューム感のある焼き鳥(2本)を長年おなじみの“鳥貴族価格”280円(税別)で食べられるのは9月いっぱい。でも、18円値上げしてもまだまだ安いぞ!

考え抜かれた戦略はその価格設定にも表れている。遠藤氏が続ける。

「値上げしたといっても18円アップの298円で、まだ200円台です。300円台では高くなったと感じるでしょうが、298円ならイメージはまだ低価格ゾーン。客足にさほど影響はないでしょう」

確かに、値上げ発表後に鳥貴族に来店していた客に感想を聞いてみると、こんな慈愛に満ちた声が。

「18円の値上げは誤差の範囲。高いとは思いません」

「1割値上げしても構わない。それでもほかの居酒屋で飲むよりずっと安いから」

ここ最近、外食産業では鳥貴族のほかにも、ファミレス大手の「すかいらーく」がやはり10月から平均15円の客単価アップを予定するなど、値上げの動きが続いている。ひょっとしたら、鳥貴族の値上げをきっかけに、外食産業は増税前値上げラッシュとなるのか!?