企業の採用ホームページや求人票だけではわからない“会社の真実”はどう見抜く!? そして数多ある会社の中からホワイト企業を引き当てるには!? 企業研究のエキスパートたちに、そのノウハウを聞いてみた!
まず、ホワイト企業研究の第一人者として知られる法政大学院の坂本光司教授は、ホワイト企業の“最低条件”を5つ挙げる。
①希望退職も含めてリストラをしていない、②重大な労災事故を起こしていない、③障害者雇用が法定雇用率以上、④取引先に一方的なコストダウンを押しつけていない、⑤黒字経営
「ただ、私が過去に調査訪問した約8千社のうち、これらをクリアしている真のホワイト企業と呼べるのは5%程度です」
では、就職や転職で5%の“当たり”を引き当てるにはどうすればいいだろう。手っ取り早いのが、前出の坂本教授らが主催する「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」や、ソニーの元上席常務で経営塾「天外塾」を展開する天外伺朗(てんげ・しろう)氏ら主催の「ホワイト企業大賞」といった優良企業を表彰する賞レースで、受賞経験がある企業への入社を目指すことだ。
両賞は選考が厳しく、受賞企業のホワイト度は高い。ただ、天外氏によれば「賞を獲とった企業はホワイトとして認知度が高い分、応募者が殺到する傾向がある」とのこと。
では、認知度が低い“隠れホワイト企業”を自分で見つけるには? 企業の採用事情に詳しい千葉商科大学専任講師の常見陽平氏は「まずは客観データから見分けることが大切」という。
ホワイト企業とそれ以外の企業で差がつくのは、「3年後離職率、平均勤続年数、残業時間」など。こうしたデータは『就職四季報』(東洋経済新報社)で入手できる。
「『3年後離職率』なら、厚生労働省が毎年公表している大学新卒者の平均値は30%前後。これを基準に各企業の離職率の高さを判断します」(常見氏)
ちなみに、厚労省が公表する産業別の3年後離職率を見ると、飲食・宿泊50.2%、教育・学習支援45.4%、不動産34.9%(2014年時点)などの業種が平均値を上回る傾向がある。ただ、前出の坂本教授はこう言う。
「離職率には、結婚や病気などでやむをえず退社する社員も含まれる。そこで私が指標にしているのが『転職的離職率』(転職を理由として退職した人の割合)です。この数値がおおむね年3%以下なら私は“良い会社”だと思います。これは『就職四季報』にも載っていない情報ですが、企業の人事部は把握しているはず。説明会や面接で『転職的離職率は?』と聞いて『わからない』と答えるような会社は要注意。不都合な数字を隠している恐れがあります」
採用企業が公表する情報を見るときも注意が必要だ。NPO法人POSSEの今野晴貴氏はこう話す。
「企業によっては都合の悪い情報を隠そうとします。例えば、『就職四季報』で離職率を『N/A(ノーアンサー)』と非公開にしている企業は、離職率が高い可能性がある」
また、事実とかけ離れた情報を出す企業もある。
「何十年も前に少額の取引があっただけの大手企業の名前を、企業概要の『主要な取引先一覧』に入れたり、『大手○○社在籍時にトップ営業マンとして表彰』などと社長の経歴を詐称・誇張していたり。ブラックな企業ほどクロをシロに見せかけるウソが巧妙です」(前出・常見氏)
目指すべきは“元”ブラック企業!?
そこで“当たりクジ”を引く確率を高める手法として常見氏が提言するのは「地味だけど、製品力が高いBtoB企業(企業に対して商材やサービスを販売している会社)にターゲットを絞る」ということだ。
例えば、東京・新宿にある『フロイント産業』は一般には知られていないが、医薬品の錠剤の表面をコーティングするニッチな装置の製造で、国内シェア7割、世界シェア2割、創業から52年連続黒字の優良企業だ。
「人気企業ランキングでは、消費者向けに直接、モノやサービスを提供するBtoC企業が上位になりがちですが、企業が企業を相手にするBtoB企業は目立たない存在だからこそ、オンリーワンの技術を持つ“隠れ優良企業”が多いんです」(常見氏)
また、意外と無視できないのが、“元”ブラック企業だ。
ある大手IT企業は長時間労働が常態化するブラック企業として有名だった。しかし、マスコミなどのバッシングを浴びて社長は猛省し、社内改革を断行。有給(年20日)取得率100%を目指し、今では97.8%を達成した。また、社員の月平均残業時間も大幅に減らし、前月より残業を削減した社員には数万円の手当を与えるなど、今やホワイト企業として知られる存在になった。
「もちろん、そんな変身を遂げた企業はまれ。でも、ブラックとして叩かれた経験がある企業を名前だけでスルーするのではなく、どんな変化の途上にあるのかチェックするのは決して無駄じゃない。例えば、すき家の『ゼンショー』や居酒屋チェーン『ワタミ』は、あれだけ叩かれたからこそ、むしろ“ホワイト企業に変身する可能性がある”、とみたほうがいいと思います。過度な期待は禁物ですが(笑)」(常見氏)
月刊紙『日本一明るい経済新聞』を発行する産業情報化新聞社の竹原信夫社長は関西圏で毎月50社、年間600社の経営者を取材して“いい会社”を厳選、紹介している。同氏によると、会社の姿勢が最も表れるのは「トイレの便器」なのだという。
「経営者の心は便器に表れる。素晴らしい経営理念を持っていても、便器が黄ばんでいたらダメです。逆に、いつも便器がキレイな会社は経営者の目が細部まで行き届いている証拠。社員への思いやりも、きめ細かい。リーマン・ショックを乗り切り、今も元気な会社はどこもトイレの便器がピッカピカですよ」
志望企業を訪れたら、まず便器をチェック!
(取材・文/興山英雄)