“高崎市が主導する町おこし企画「絶メシリスト」がかなりキテいる”――。
そんな噂を聞いた記者は群馬・高崎へと向かった。一体、絶メシってなんだ? 何がどうキテいるの? そもそもなんで高崎?と、疑問は尽きないが…。
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「絶メシ」なる言葉を知っているだろうか――。
絶メシとは、簡単に言うと“昔からある個人経営の飲食店”で絶滅の危機に瀕しているローカルな味のこと。高崎市では、こうした昔ながらの“絶メシ店”が年々、姿を消していることに危機感を覚え、今年9月末に『絶やすな 絶品高崎グルメ』を合言葉に異色のローカルグルメサイト「絶メシリスト」をスタート。
絶滅危惧種的な飲食店を救おうと、そうしたお店の情報発信を開始したところ、紹介している店がいずれも“相当キテいる”と話題を呼んでいるらしいのだ。そこで、まずその一部を紹介すると…。
例えば「看板ナシ、メニューは2品、営業時間は2時間半 高崎が誇る“異端系食堂”はいろいろスゴい」というタイトルで紹介されている「大豪」というお店。
タイトルにある通り、このお店には看板がない。数年前の台風で飛んでいったっきり修理していないのだという。さらにメニューは2品だけ。しかも味の秘訣について、「決め手は、旨み調味料と塩」と断言する豪快な店主。ちょっとどころか、異色すぎてすごい。
また、手打ちうどんの店「あづまや」も確かにキテいる。喫茶店経営からスナック経営、そしてトラック運転手…という異色の経歴を持つ手打ち麺職人のご主人が切り盛りしているが、エピソードに事欠かない。
ご主人は、弟子は取らない主義だと断言しているものの、どういうわけか台湾に姉妹店があることを告白。曰く、台湾出身の友人に「うちの息子にうどんの作り方を教えてほしい」と言われ、当初は断ったものの、その友人と一緒に台湾に行った際に「飲み食い全部出してもらっちゃった」(原文ママ)ことにより、長年培った技術を惜しげもなく(仕方なく?)、その息子に伝授するはめになったという(ちなみに、高崎本店には後継者はいない模様)。
さらに続いては、昔ながらの黄色いカレーを出す大衆食堂「松島軒」。こちらのカレーの秘密について、店主は「使っているカレー粉はクラシックなS&Bの赤缶です。それをあえていじくらないで使っています」(原文ママ)と、まさかの市販のカレー粉を使っていることを真っ正直に語っている。
このように、絶メシリストに掲載されている店は、グルメ雑誌やグルメサイトでは間違いなく紹介されないようなところばかり…。こういう店を推していこうという高崎市の思いっきりっぷりもすごいという他ない。というか、何を考えているんだ!?
「絶メシ」店に潜入!
そこで、高崎市企画調整課の小柏剛さんに話を聞いた。
「お気持ちはわかります(笑)。確かに、最初に企画が持ち上がった時には役所内でも『これは大丈夫か』『絶メシって言葉はさすがにまずいんじゃないか』といった不安の声もありました。ただ、高崎ではここ数年、昔ながらの飲食店がどんどん潰れていっていました。これをどうにか止めたいという思いが我々にはあります。
なので、思い切ってこの企画をやってみたところ、多くの市民、さらにメディア関係者からご賛同、ご支持をいただきました。正直、我々もこの反応に驚いています」
実際、市内外から相当な反響があるとのこと。TV番組でも数多く取り上げられ、まんまと企画に乗っちゃった(乗せられた?)というか、とりあえず話題化には成功したのでひと安心、といったところのようだ。
■絶メシ店に潜入取材! 記者がそこで見たもの、感じたこととは…
当面の話題化には成功した高崎市の「絶メシリスト」。しかしメシは食ってなんぼのものである。そもそも、話題化だけでは一過性のもの…店は成り立たないだろう。そこまでして高崎市が残したいという絶メシ店とはどんなものなのか? というわけで、記者は実際にそんな絶メシ店に潜入してみた。
まず1軒目は、先ほど紹介した看板ナシ&メニュー2品だけの異端系食堂「大豪」だ。
店内は8席程度のカウンター席、奥には6名程度が入れそうなお座敷の部屋もある。店の雰囲気は実に味わい深い。
カウンターにはサラリーマン風の男性客ふたり。黙々とラーメンをすすっている。メニューは噂通り「ラーメン定食」と「野菜炒め定食」の2品のみ。ラーメン定食をオーダーした後、取材で来たことを伝え、話を伺った。
「最初に高崎市から“お店を紹介したい”って話を聞いた時は、こんな汚(きった)ねぇ店を紹介してもしょうがねぇだろうって思ったんさ。だから断ろうと思ったんだけどね。でも、まぁ面白いんじゃないの。オレ、よくわからないけど、それで街が盛り上がるんだったらさ」(店主・小曾根勉さん)
ラーメン定食は、ラーメンにハムカツと鶏カツ、サラダとライスがついて700円。ものすごいボリュームである。味はいい。普通にうまい。そして店主の小曾根さんのキャラが実にいい。
正直、お店滞在時間は30分程度だったが、彼の魅力がこの店の魅力そのものであることをなんとなく感じ取った。こういう店がなくなると、確かに街は寂しくなるのだろう。
さらに、続いて群馬のソウルフードである焼きまんじゅうの店「オリタ」へと向かった。こちらも絶メシリストで紹介されており、高崎市内での知名度も高い名店だという。
チェーン店や行列店では感じられない価値
店主の武田利子さんは実にお喋りだ。焼きまんじゅうをオーダーするまでに前説(マエセツ)的なトークが入り、オーダーをした後もなかなかキレのある喋りをかましてくる。それが不思議と鬱陶(うっとう)しさがなく、程よい距離感なのだ。
でき上がったばかりの焼きまんじゅうをいただく。問答無用でうまい。一瞬にして平らげると「若いからまだ食べられるでしょ」と語り、お餅を焼いてくれた。サービスだという。
程よく焼かれた餅を、焼きまんじゅうのタレにつけていただく。これも驚くほどうまい。さらに、なぜかさきイカまで出してくれた。オーダーしてもいないのにアイスコーヒーまで。なんだここは? おばあちゃんちか。
もちろんすべてのお客さんにこういう対応をしているわけではないだろう。あくまで、遠方からきた記者への“おもてなし”だと思われる(じゃないと、お店が成り立たない)。ちなみにお代は170円…焼きまんじゅう分のみであった。
その他、「絶メシリスト」に掲載している店を数軒巡ってみた。取材や掲載拒否の店、正直なところ「今にも潰れそうだな」と思った店もあった。しかし、どこも出している料理には「気持ち」が込められていた。めちゃくちゃ曖昧(あいまい)な表現だが、どの絶メシ店も味やコスパだけではない数値化しづらい価値があるような気がした。その価値はチェーン店や行列店では感じられないものだ。
ちなみに、絶メシ問題は何も高崎市に限った話ではない。日本では、今や飲食店を含むサービス業の後継者不在率は66.1%(帝国データバンク「2016年 後継者問題に関する企業の実態調査」より)。あらゆる業種で後継者問題は大きな社会問題となっているが、サービス業のそれは他業種よりも高い。日本全国に「絶メシ」と呼べるお店があるはずだ。
この記事を読んでいるあなたにも、なくしたくない店があるだろう。なくなってから後悔したって、もう遅い。今食べないでいつ食べる。あなたの街の絶メシ店、明日の昼にでも行ってみてはどうだろうか。
●高崎市の「絶メシリスト」は公式サイトからチェック!
(取材・文/小山田滝音)