『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)の著者、斉藤章佳(あきよし)氏は大森榎本クリニック(東京・大田区)で痴漢、強姦、小児性犯罪、盗撮・のぞき、露出、下着窃盗など1100人を超える性犯罪加害者と向き合い、国内でも先駆的な治療プログラムを行なっている。
前編記事では、犯罪行為を正当化して子どもに性暴力を振るう小児性犯罪の根深さについて言及した。『どうせ大人になったら経験することだから教えてあげているだけ』と、歪んだ認知で罪悪感もなく、身勝手な欲望を垂れ流す小児性犯罪者たち――。
だが皮肉なことに、本来なら生徒を教え導く存在であるはずの教師でさえも犯罪に手を染めることがある。過去に斉藤氏が関わった患者が、10件を超える児童へのわいせつ行為で逮捕された元教員のA氏だ。
「A氏は成人女性も性対象ですが、彼の異常な小児性暴力の対象は『小学生の児童』。犯行の詳細な内容は伏せますが、スクールセクハラともいわれる学校内での性犯罪は生徒と先生という圧倒的な力関係が根本にあるために発覚しにくく、表沙汰になるまでにかなりの時間がかかってしまいます。
児童にとって教師とは自分を評価してくれる絶対的な存在なので、性暴力を受けたとしても『絶対に言っちゃダメだよ』『ふたりだけの秘密だよ』と言われれば『自分は先生にとって特別な存在なんだ』と錯覚してしまうケースが多い。その結果、被害を言語化することができないという状況を加害者は作ってしまうのです」
そもそも「低学年の児童ほど知識がないために性暴力を受けても自分が何をされているのかわからず、周囲に助けを求めることもできない」ケースが多いのだという。
「幼い子どもは、特に先生に対しては無条件に慕ってきます。つまり、加害者からみれば“支配”しやすいということ。職業に関係なく、小児性犯罪の加害者の特徴として、相手を思い通りに支配したいという欲求が強い傾向があります。その歪んだ欲求について、ある加害者は『飼育欲』という特殊な言葉を使っていました」
罪悪感がなく、再犯率が高い
昨年に逮捕され、大々的に報じられた埼玉少女誘拐事件では寺内樺風(かぶ)被告に約2年に渡って監禁されていた被害者の少女も事件発生時は13歳だった。この事件のおいても加害者の“飼育欲”が関係しているのだという。
「“飼育欲”というのは造語ですが、小児性犯罪の動機になりうる支配欲求のひとつ。中には千葉県松戸市で9歳の女児が犠牲になった事件(※)のように殺人にまで至ってしまう凄惨なケースもありますが、これは歪んだ支配欲の最終形態なのかも知れません」 ※小学校の保護者会会長・渋谷恭正被告が殺人、強制わいせつ致死、わいせつ目的誘拐などの疑いで逮捕された事件
子どもを自分の欲望を満たすための対象にする、そんな身勝手な小児性犯罪者の人物像については「加害者の多くは実直で勤勉、犯行が発覚した際には『まさかあの人が…』と周囲を驚かせるくらい真面目なタイプが多い」とのこと。
さらに踏み込んで話を聞くと…。
「成人女性との性交体験がない人も多いのです。特に子どもだけしか性の対象と見ることができない加害者の場合、その背景を探ると学生時代に女子生徒からいじめられていた経験があることも多く、根底には同年代の女性や成人女性に強い劣等感や恐怖心を持っていることも多い。それが原体験として残り続け、成人女性には表現できない支配欲が子どもに向けられてしまう、というケースが目立ちます」
小児性犯罪者の“共通点”は他にもあった。
「事件発覚後に警察が家宅捜索に入ると、動画や画像などいわゆる“児童ポルノ”といわれるコンテンツのコレクションが必ずと言っていいほど発見されます。そういった作品が犯罪に必ずしも直結するとは言えませんが、繰り返し見続けることで問題行動(小児性犯罪)を起こすハードルが下がる人はいます。児童ポルノについては、今後さらなる規制が必要だと考えています」
巷(ちまた)にあふれる幼女たちをモチーフにしたアダルトコンテンツは、やはり常習化した小児性犯罪者のトリガーになる危険性をはらんでいるというわけだ。
「加害者の多くは、子どもを見ただけで『引き込まれる』『吸い込まれる』と言います。また、『純粋に子どもが好きなだけ』『教育的に性行為を“教えた”だけ』と罪悪感を持っていないのも問題です。罪悪感がないからこそ、他の性犯罪に比べてその歪んだ思考回路を改善するのがかなり難しく、再犯率が高くなってしまいます」
声を上げられない子どもの心を、身勝手な欲望にまかせて無残に引き裂く加害者たち。彼らの“魔の手”から子どもを守るためにはどうすればいいのか――?
★続編⇒子どもはSOSを言葉にできない! 小児性犯罪から守るため周囲の大人が今すぐできること
(取材・文/青山ゆか)