和歌山県の県都・和歌山市が、2019年秋に開館が予定されている市民図書館の指定管理者にTSUTAYAを展開するレンタル大手CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)を選定。12月15日の市議会で正式に承認された。
CCCが運営する通称“ツタヤ図書館”は全国で4館が開館しているが、佐賀県武雄市などで発覚した古すぎる中古本『Windows98/95に強くなる』や、青少年には刺激的すぎる『大人のバンコク極楽ガイド』に代表されるお粗末な選書の数々は激しく批判された。
にも関わらず、和歌山市では新図書館の指定管理者をCCCにする案が“超特急”で可決…。その裏には、反対派住民らに異を唱えるスキを与えない議会戦術があったと憶測される理由を前編記事では伝えた。
ある自治体関係者は「こうした議会運営も含めた住民対策を背後で事細かに指南しているのがCCCではないか」と言及する。というのも、同社にはその“前歴”があるというのだ。
“第3のツタヤ図書館”として新装開館することになる宮城県・多賀城市の職員が、2013年7月、武雄市の図書館・歴史資料館を訪問した時に作成された内部文書の一部がある。
といっても、当時、話題沸騰だった武雄市のツタヤ図書館の視察報告ではない。『CCCと今後の打ち合わせ質疑応答』と題されたそのペーパーには、多賀城市教育委員会(以下、市教委)の役人とCCC担当者のやりとりが生々しく記録されている。この中には、予算や議会運営、条例の改正までスケジュールに組み込まれているから驚きだ。
多賀城市では、この文書が作成された13年7月26日の2週間ほど前、菊地健次郎市長が突然、記者会見を開いて「CCCと新図書館建設へ向けて連携協定を締結する」と発表。ここからCCCが指定管理者として正式決定される14年6月まで、1年近くにわたって教育委員会や議会での議論・審査等、所定の手続きをひとつずつ踏んでいくわけだが、この内部文書作成時点では、まだ何も決まっていない白紙状態。CCCは指定管理者候補ですらなかった。
図書館に関して言えば、いくら市長が「CCCに決めたい」と熱望したところで、審査権限を持つ教育委員会が「ノー」と言えばその計画は進まない。にも関わらず、市教委の役人が武雄市を訪問して、あたかも『指定管理者=CCC』が既成事実であるかのごとく、同社の図書館部門の主要メンバーと詳細な打ち合わせまで行なっていたのである。
多賀城市の市議会関係者がこう話す。
「市の職員3人が武雄市を『視察』と称して1泊2日で訪問していたのに、議会で追求されると、2日目は『視察しただけ』と、当局はその復命書(報告書)を1日分だけしか出しませんでした。するとその後、匿名で市議などに完全な文書が郵送されてきたのです」
つまり、役所内部には市立図書館の“ツタヤ化”を快く思わない人間がいて、その人物が出来レースの実態を暴露するために「爆弾文書」をリークするべく送ったというわけだ。
内部文書の中身を徹底検証してみると…
全12ページにわたる文書のポイントを見ていくと、まず注目したいのが「アジェンダ」と題されたレジュメ。「1.メンバーご紹介」から始まって「4.次回以降の定例会開催日確認」まで、視察当日の議事進行が記されている。「多賀城市教育委員会様」となっていることから推察すると、CCC側が作成した文書だろうか。これ以降、頻繁に市教委と担当者が綿密な打ち合わせを行なっていたことがわかる。
この“密談”の深部に迫っているのが、2ページ目の「マスタースケジュール」だ。「議会関係」「図書館関係」「人員関係」「会員・システム関係」「個人情報関係」「FC企業関係」といった項目別に開館に向けて作業すべきこと、CCC側の担当者名などが整理されており、右に伸びたスケジュール表でそれぞれの実施時期やデッドラインがひと目でわかるようになっている。
作業すべきこととは、議会運営から始まって、新図書館の開館準備作業、人材の採用・配置、図書貸出にTカード採用のための作業、個人情報保護対策、入居施設の建築やテナントについてまで、CCCサイドが市に開業までの工程表を提示している。
中でも一番驚くのが、議会運営にまでCCCがこと細かに口出ししている点だ。蔵書購入費などの「予算確保」から、図書館運営を民営化するための「条例改正」、「指定管理制度の導入」「住民説明会」まで、いつまでに何をしなければならないかを手取り足取り指南しているようだ。
予算の確保くらいは、民間事業者から行政へのお願いとして議題に上る例もあるだろうが、広く市民の意見を聞いて決めるべき指定管理者制度に関する「条例改正」を事業者側から言及するのは越権行為だろう。自社に便宜を図ることを要求しているととられかねない。
また、このマスタースケジュールには『指定管理者選定(特命)』とも記され、公募を前提とした指定管理者制度であるはずなのに、あたかも特定の業者を指定する形の特命随意契約での選定を前提にしているかのような書き方をしている。
さらに、本編である当日の会議の内容は、3ページ目以降の『CCCと今後の打合わせ質疑応答』にQ&A方式でまとめられていた。
新装開館したばかりの武雄市の改修状況から始まって、独自の運営管理方法などについて、市教委側から素朴な疑問をぶつける格好で進められているのだが、こちらでも全編を通して感じるのが役所と民間事業者の“主客逆転”である。
通常ならば、公務を受託したい民間事業者の質問に、権限を持つ役所が回答するはず。が、なぜかこの質疑では、役所側が「どうなるのでしょうか?」と様々な不安を口にしては、それに対して民間事業者であるCCCが回答する格好になっている。決定権を持っているのはあくまでCCCであり、市はまるでそれに従う“下請け業者”のようだ。
例えば、壁一面に本を配架する高層書架について「その辺の変化や対応というのは、これからの話し合いの中で十分できるのか、それともCCCとしてはあの構想案を貫きたいと思っているのか」と市が聞いている。また、施設内に同居を予定しているカフェや書店などの商業施設との境界線を設けることや、Tポイントが図書の貸出に付与されることなどの不安点を列挙したりもしている。
和歌山市はまるでCCCの“下請け業者”
これに対してCCC側は、武雄市のケースでは「建物サイズが決まっていたので、身動きがとれない部分があった」が、多賀城市では「フリーハンドで作れる」と、まるで自分たちが施主であるかのようなスタンスで回答。具体的には「CCCが思っている部分と両立させるやり方で~」と曖昧(あいまい)な表現に終始しつつ「そこは話し合いですし、おざなりにするつもりはありません」と、今後の折衝次第のニュアンスを残している。
当時の武雄市図書館はまだ開業から3ヵ月しか経過しておらず、後にCCCの高橋聡カンパニー長が「武雄の時は“ど素人”でした」と発言しているように、同社の図書館運営に関してはヨチヨチ歩き状態だったはず。それを画期的なノウハウを持っているかのごとく、崇めなければいけない雰囲気でもあったのだろうか。
最後に注目したいのが、質疑応答の終盤に出てくる多賀城市側からの質問だ。
「多賀城市図書館が35年間積み上げてきたものを大事にしたい」と市側が述べているのに対して、CCCは「一番最初に(多賀城市教育委員会事務局の)生涯学習課長が言われていましたので、それはきちんと担保します」と明言している。
ところがその後、16年3月、多賀城市“ツタヤ図書館”オープンまでの経過を見ると、当初から「新図書館の柱として歴史・郷土に力を入れる」としていた市側の思いを、CCCが実現できたとは到底言い難い。
例えば、大切にするはずの郷土資料は手の届かない高層書架に追いやられ、分類も一部、世界史と日本史が同じになっているなど配架の混乱状況を議会で指摘されている。
また、追加蔵書として購入した図書3万1千冊のうち約1万1千冊は料理や旅行、美容・健康など生活実用書を中心とした中古本だった。その中身も酷い。選書リストには、刊行後5年以上経過したものが4400冊、10年以上経過したものも1200冊あり、武雄市であれだけ批判された“古本騒動”と全く同じことを繰り返している。
重点的に強化するはずだった歴史・郷土に関する図書は、新装開館後に大きく増やすどころか、蔵書全体に占める比率を0.4%落としている。同じく市側が重点分野に指定していた児童書も3.4%ダウン。当然、CCCが主催するイベントの告知に歴史・郷土関係のものはあまり見かけない。
市とCCC担当者とのミーティング内容のほとんどは、結果としてCCC優位で決められており、どちらが主導権を握っていたかは火を見るよりも明らかだ。
こうした内幕を知ると、名前が出てからたった2週間でCCCを新図書館の指定管理者に選定した和歌山市のケースでも、やはり議会運営も含めて、行政と事前の打ち合わせをしたのでは?と疑わざるをえない。特に、決定するまでの議会運営等は同社が事細かに指南したのではないかとの疑いがますます濃厚になる。
古本を大量購入、郷土資料は隅っこへ…
この件について、ツタヤ図書館の誘致計画を推進した和歌山市民図書館・図書館設置準備班の宮地功班長を直撃した。
-今回、指定管理者選定や議会運営のスケジュールについて、指定管理者候補であるCCCとの相談や示唆(しさ)があったのでは?
「別の事業者さんもあげて(応募して)きてくれているので、それは全くないです。『このタイミングでします』とか、言い方は悪いですが、恣意(しい)的にそうさせてもらったということはない。例えば、CCCさんに偏った形になるとか、そういうことは全くないです」
-条例改正や指定管理者制度についてCCC側から何か進言があったということは?
「全くないです」
と和歌山市は完全否定。続けて、CCC・広報室にも同じ質問をぶつけた。
―指定管理者選定や議会運営のスケジュールについて、和歌山市当局と一度でも詳細に話し合われたことは?
「市が決められたスケジュールですので、私どもは与(あずか)り知らないことでございます」
―2013年7月26日に佐賀県武雄市の貴社オフィスにおいて、多賀城市の職員と貴社の図書館部門のスタッフがミーティングを開催し、指定管理者決定前に市当局と議会運営等についても詳細な打ち合わせをされていたことが判明しました。今回、和歌山市でも同様のことが行なわれていたのでしょうか。
「13年7月26日に多賀城市教育委員会の職員が武雄市図書館を視察に来られた際、当社の武雄オフィスでお迎えいたしました。その際は、遠路おいでいただいた皆様に挨拶を兼ね、武雄市図書館の取り組みの経緯、経過を含めてご紹介させていただきました」
このように、和歌山市と事前に話し合っていたかどうかについての回答はなかった…が、この文書に記録されている日に多賀城市側と接触した事実は認めた。多賀城市のケースでは、早くからCCCの名前が出たため、議会開催のたびにCCCの指定管理者としての資質に疑義が呈せられ、その渦中、一部の週刊誌で“出来レース疑惑”も報道されている。
そして、住民投票でノーを突きつけられ、建設計画が白紙に戻った愛知県・小牧市をはじめ、誘致予定地では“CCC反対運動”が次々と火を吹いた。
両者は否定したものの、その教訓からCCCの指南の下、図書館の民営化(指定管理者制度導入)だけ先に決め、指定管理者の選定発表は開館予定から逆算して、ギリギリまで遅らせて短期集中で行なう…今回の“和歌山市方式”が編み出されたのではないか――?
もしそうだとしたら、同様のことが今後、ツタヤ図書館を誘致する自治体でも取り入れられる可能性は高いといわざるを得ない。
★完結編⇒議会にCCCの営業マン? 各地で炎上する“ツタヤ図書館”…和歌山市でも補助金注ぎ込み中身カラッポ!?
(取材・文/日向咲嗣)