モテるオスの条件について語る宮竹貴久教授

男と生まれたからには、できるだけたくさんの女のコと付き合いたい…というか正直、デートとかしなくてもいいからエッチしたい! たくさんの女のコと! …という多くの男性がひそかに抱いている願望は、実は生物学的に正しい。

有性生殖をする生き物である以上、より多くのDNAを次世代に残すことこそ生物の命題だからである。オスとメスがこの世に生まれた理由は、セックスをして子を残すことに他ならない。

では、なぜ時に、いや多くのケースで、えー、まぁほとんどの場合で、男たちの女性へのアプローチは失敗するのか? ある調査(2016年厚生労働省発表「第15回 出生動向基本調査」)によると、今や日本の独身男性(18~34)の69.8%に交際相手がおらず、また30代後半の独身男性の26%に性体験がないという。

彼女ナシ7割、童貞が4分の1…。もちろん、中には「俺には2次元のヨメがいるから」という剛(柔?)の者も含むだろうが、同調査では独身男性の85.7%が「いずれは結婚したい」と答えているので、やはり現代の日本男児は「出会えない・付き合えない・結婚できない」の三重苦に見舞われていると見ていい。

「結婚できない」理由には「結婚資金の不足」を挙げた人が最も多かったため、これは安倍内閣に本気を出してもらうしかない。しかし、そもそも「出会えない」「付き合えない」のは、実はこれも「生物学的に正しい状態なのです」と仰るのは、昆虫学者の宮竹貴久教授(岡山大学大学院環境生命科学研究科)である。

「虫の場合、野外ではまずメスを見つけるのもそう簡単ではありません。だからオスはメスを見つけるとすぐにアプローチを始めるのですが、ほとんどのメスは拒否します。僕の先輩がウリミバエという虫で観察した例では、メスに受け入れられたオスは61分の1でした」

61匹のオスが果敢にもメスに求愛を試みたが、ようやく交尾…つまりセックスを許されたのは1匹だけだった!?

だが考えてみれば、哺乳類でもゾウアザラシやニホンザル、ライオンのようにボスのオスがメスを独占し、他のオスはセックスできない過酷な一生が待つ種は少なくない。なぜか?

これら男の試練はすべて生殖にかけるコストの差が、オスとメスとで大きく異なることから生じるのだ。宮竹先生が続ける。

「有性生殖に際してメスが提供する卵(らん)は、メスにとって有限で貴重な資源です。しかしオスは精子を無限に近く大量生産できる。1回のセックスですべてが受精できるわけではないため、より多くのメスとセックスして精子をばらまくほうが自分の子どもを残せる可能性が高まります。

でもメスは逆で、より優秀なDNAを持つ精子だけを受け入れたい。そうしてできた子は、より自分のDNAを残しやすいですから。つまり男と女の間でセックスに対する利害が衝突するわけです」

前脚でメス(左)を支えて交尾するモンカゲロウのオス(右)。写真提供/宮竹貴久

モテるオスの条件とは?

他のオスを引き離して草むらに下りたモンカゲロウの交尾ペア。写真提供/宮竹貴久

例えばヒトの場合、1回のセックスで男性が放出する精子は1億~4億。対して、女性の卵子は月に1個(まれに2個以上。排卵誘発剤などを使うと多くなることがある)。この貴重な卵子が精子を受け入れると(受精)、女性は300日もお腹で子を育て、出産後も「生物界で最も自立が遅い」ヒトの子に乳を与え、守り育てなければならない。

数百日は新たな繁殖もできないし、自然界にこの女性(メス)がいたとしたら、大変弱く襲われやすい獲物になってしまう。言うまでもないが、この間の男性(オス)は他の女性とセックスしまくっても(生物学的には)問題ない。

女性にとって生殖を伴うセックスは、これほどリスキーで不平等な行為なのである。メスがオスを基本的には拒むのも無理ないのだ。

前出の宮竹先生は、そんな状況でもモテるオスの条件を著書『したがるオスと嫌がるメスの生物学』(集英社新書)の中でいくつか紹介している。

(1)喧嘩に強い メスを奪い合う闘争に強いオスや、メスが来る餌場を闘争で守れるオスは当然、メスと交尾しやすい。そのために昆虫のオスは角を伸ばしたり体を大きくしたりする。

(2)よく動く 刺激に対して死にまねをする昆虫を観察したところ、死にまね時間が短く、よく動くオスはメスに出会いやすかった。その代わり、敵に見つかりやすく死にやすい(泣)。

(3)「前戯」がうまい 前脚や翅を使ってメスの体を撫でる前戯、心を誘う鳴き声やフェロモンなどメスをその気にさせるテクニックを駆使できるオスは交尾しやすい。

(4)スキを見つける 昆虫の中には、強いオスが守っているハレムに忍び込んでメスと交尾するオスもいる。

(5)求愛のタイミングがいい 昆虫のメスには1回のセックスで一生分の精子を受け取る種が多い。つまり彼女にとって2匹目のオスは繁殖上、意味がないということだ。宮竹先生が観察したカゲロウの例では、オスが交尾のためにつくる集団からいち早く抜け駆けしたオスがメスをゲットできる。

(5)のカゲロウの場合、オスが交尾をめぐる戦いに参加できるのは、1年間の寿命のうち最後の1日。それも天敵のツバメが姿を消し、これも天敵であるコウモリが現れるまでの30分間だけだ。それでも大概のオスが交尾できず、童貞のまま死んでいくというのだから痛ましい。

さて、オスたちはこうした尊い犠牲(?)の上に様々な戦略を発達させ、なんとかしてメスとの交尾を成功させようと進化を重ねた。しかし「子孫を残す」目的からいうと、セックスできたからといって油断はならない。なんと、多くのメスは受け取った精子をさらに選別、小池百合子風にいえば「排除」しているのだ。

さらに驚いたことには、ヒトのセックスでもこうした「精子競争」があるという。つまり、女性には精子を選ぶ技術があり、男性には他の男の精子を排除する機能があるのだ。男が、愛した女に他の男の子どもを生ませない機能――それはペニスの形に秘密があった。

●後編⇒DNAを残すゲームを繰り返す、男と女の“無慈悲で激しい”駆け引きとは?

(取材・構成/安倍 晶)

■『したがるオスと嫌がるメスの生物学 昆虫学者が明かす「愛」の限界』(集英社新書 760円+税)