「お金があればあるほど豊かなはずなのに人と人が出会って0円で取引したほうがより豊かな感じがするんです」と語る鶴見済氏

昨今、多分野において急速に浸透する「シェアリングエコノミー」という共有概念。以前にも増して、若者を中心に消費意欲も低下傾向にあるといわれている。

思えば人類は、資本主義が発展するまではその進化の過程において物を共有することで営みを発展させてきた。しかし、行きすぎた資本主義経済がお金中心の社会を生み出し、結果として格差の拡大につながってしまっている。

1990年代の「個人の生きづらさ」に焦点を当てた著書『完全自殺マニュアル』(太田出版)のヒットでも知られる鶴見済(つるみ・わたる)氏は、近年、「シェア」や「贈与」「助け合い」「栽培」などといった「お金のかからない生活」を自ら実践することで、小さな経済でも豊かに生活する方法を模索し、経済面から「生きづらい人」がいかに楽に生きられるかを追い求めてきた。そのノウハウをまとめた『0円で生きる  小さくても豊かな経済のつくり方』について鶴見氏に聞いた。

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―今回、本書を執筆するに至った動機を聞かせてください。

鶴見 今の日本社会には、大量生産や大量消費、お金至上主義といった社会の主流(=「資本主義経済」)に対して違和感を持っている人が多くいます。そうしたオルタナティブな人たちは、決して金銭的に裕福とはいえない場合も多いです。でも、そうであっても豊かに生きられる経済的領域を社会のなかに増やしたいと思ったんです。

―鶴見さんが今も実践されている「0円生活」のなかで、特に打ち込まれているものはなんでしょう?

鶴見 最近、すごく面白いと思っているのが、ゴミを拾って使うことですね。

今はすっかり見なくなってしまいましたが、かつて通勤電車の金網の上に置かれた新聞を拾って読む、といった光景は割と日常的にありました。あれも、一種の「ゴミ拾い」といえるでしょう。今でもその日の新聞だったらなんでもいいので、ゴミ箱の中から拾って読むことがあります。

―とはいえ、そういったことに対する世間の“目もあるのでは…? 

鶴見 今は、行政側が「持ち去りは犯罪」という目で見ることが多くなったせいもあって、拾うことを怪しく思う方もいるかもしれません。しかし、資源の有効活用と考えれば決してやましいことではないんです。当然、プライバシーの侵害になるようなことまではしてはならないですが。

―確かにそう言われると、時に「もったいない」と思うゴミもあるかもしれません。

鶴見 そう、ちょうどこれからの季節のことですが、大きな公園のお花見の後は“見物”ですよ(笑)。お酒や未開封のつまみ、シートやクッションなどが山のように捨てられるので、それをもらうんです。私の知人は、それでビール1ケースを見つけたそうです。あとは、勇気があるかないかです。

お金なしだと人間関係ができてくる

―そこまでいくとすごく得な気がします(笑)。「拾う」ことはひとりでも完結しますが、本書では0円生活によって生まれる人間関係の重要性についても言及されています。そのような例はありますか?

鶴見 私も毎回参加しているのですが、月に1回、不要になった日用品を5、6人が持ち寄って放出する「0円ショップ」という街頭アクションが東京・国立で開かれます。日用品とはいっても、買い取り価格が10円未満から100円程度のものが基本です。そこでは道行く人ともつながりますし、常連さんもいます。無料ということもあって、先ほど述べたような「主流ではない人たち」にとっても来やすく、いいたまり場になっているんです。

あと、近隣に住む外国の人たちもかなり来てくれますね。日本人のなかには、警戒心が働いてしまって近寄りにくい人たちも多いかもしれませんが、彼らは露店慣れしているというか、そういうところを冷やかす習慣があるせいか、ノリよく話しかけてくれたりするんです。

「0円ショップ」をやっていると、「お金なしだと人間関係ができてくるものだな」とすごく実感しますよ。

―海外では、日本以上にシェアの概念が定着していますよね。特にアプリなどを通じて若年層を中心に広がっている印象を受けます。

鶴見 私がベトナムに滞在した際に利用した、タダで泊まりたい人を募集するサイトの「カウチサーフィン」は画期的でしたね。ホストは、自身の家や店のスペースを無料で利用者に寝床として貸すんです。条件さえ合えば、何泊したっていい。また、ホストによっては晩ご飯を一緒に食べさせてくれるところもあります。

私の場合は珍しいケースで、カフェの店内に寝袋で泊まったんですが、そこに来ている常連客と交流会を開くなどして、外国語や文化のよい勉強にもなりました。とはいっても、やはり時間的な余裕がないときや、旅の疲れがたまってしまっているとき、言葉が通じにくい場合などは、使うのが面倒に感じることもありますけどね(笑)。

向こうも、泊まるからには何かを話してほしいという期待を持っています。そうやって双方にメリットがある形で成り立つところがシェアの面白いところで、そういうときに「豊かだなぁ」と感じるんですね。お金があればあるほど豊かなはずなのに、0円でやればやるほど「こっちのほうが豊かなんじゃないの?」って思えてきます。

日本にもカウチサーフィンで受け入れをしているホストはいますが、私が直接知っているのは数名ほど。日本ではまだ浸透していないシェアサービスです。特に欧米諸国では一般的ですね。

オススメの0円生活術は?

―では、週プレの読者でも実践しやすい、オススメの0円生活術はなんでしょう?

鶴見 例えば、英会話の集まりなんかはどうでしょうか。実は結構、ネット上でも募集は出ています。これまで外国人を家に泊めてきたりした経験からすると、英語を話す機会が多ければ、習う必要ってそれほどないと思うんです。これもまた、全員お金を払っていないのに全員のメリットが実現している好例ですよね。まさに、0円の醍醐味(だいごみ)じゃないかと。

―確かに便利で得な感じがします。「二人以上集まれば助け合い」とも書かれていますね。

鶴見 そう。英会話はまさにその例ですが、お互いの欲求が一番簡単に満たされているケースであれば、例えば孤独感に苛(さいな)まれているふたりが会うだけでも助け合いというか、相互扶助が実現されているな、と私は思っています。

(撮影/五十嵐和博)

●鶴見済(つるみ・わたる)1964年生まれ、東京都出身。東京大学文学部社会学科卒業後、大手電機メーカー、出版社勤務を経てフリーライターとなる。1990年代以降、社会における「個人の生きづらさ」について言論活動を行なってきた。著書に『完全自殺マニュアル』、『ぼくたちの「完全自殺マニュアル」』(編著)、『無気力製造工場』、『人格改造マニュアル』、『檻のなかのダンス』、『レイヴ力』(共著)、『脱資本主義宣言 グローバル経済が蝕む暮らし』などがある

■『0円で生きる 小さくても豊かな経済のつくり方』(新潮社 1300円+税)お金を稼ぎ、お金を使うことが当たり前とされてきた資本主義経済のなかで、あえてお金を使わない「無料の生活圏」づくりを、著者が自ら実践。「余っているものをシェアする!」「人から不用品をもらう」「無料の公共サービスを利用する」「まだ利用価値のある“ゴミ”を拾って私物にする…?」など、すぐにでもできるようなバラエティに富んだ「0円生活」のノウハウが満載! そこには金銭のやりとりを超えた豊かさも…!?