「習主席に『いいね』を送ろう」
リンク先に表示されるのは、右手を振り上げる習近平。その下には、親指を立てたおなじみの「いいね」マークがある。
早速「いいね」すると画面が移動。「人民大会堂」を背景にした待ち受け画面っぽい画像をバックに、微信(ウェイシン、中国で9億人以上のユーザーを持つ国民的チャットアプリ)の通知が表示される。
通知をさらにタッチ。するとスマホの呼び出し音が鳴り、なんと「習主席」から電話がかかってくるーー。
3月17日、年1回の国会(全国人民代表大会=全人代)開催期間中に中国共産党機関紙『人民日報』が公式に提供したウェブ広告だ。いわば、リカちゃん電話ならぬ「習ちゃん電話」。政治に関心がない人でもつい面白くてアクセスしてしまう、とがったアイデアが光るプロパガンダだ。
今回の全人代では中国憲法の改正が決定。国家主席の任期制限が撤廃されて習近平が終身の独裁体制を敷けるようになり、中国の現代史は大きく転換した。今回の「習ちゃん電話」は、やや強引に進んだ独裁化のなかで国民の人気取りを図ったもののようだ。
では、着信を取るとどうなるのか? スマホ画面がテレビ電話モードのように変わり、右手を振り上げた例のポーズの習近平が、やや下方のアングルから大映しになる。そしておごそかに語るのだ。
「ついに中華人民共和国の憲法は改正され…」「社会主義現代化強国を建設し…」
まあ、内容自体は今回の憲法改正を自画自賛するしょうもない演説である。
演説動画の終了後に“習主席ベタ褒め合戦ミニゲーム”
ただし、演説動画の終了後には「いいね」ボタンを連打して、押した回数を全国のネットユーザーと競うという、“習主席ベタ褒め合戦ミニゲーム”が始まる。最後までネットユーザーを引きつけておこうとする涙ぐましい努力だ。
2013年の政権発足以来、習近平はネットやスマホ向けのプロパガンダに注力してきた。例えば「習大大」(習おじさん)という官制ネットスラングを流行させ、当局がウェブ動画チームを動員して習近平をたたえる「神動画」をネットにアップ。さらにスマホ向けの習近平アプリ(演説内容などが確認できる)や、ラップ調の音楽で政権をたたえるノリノリの動画も登場している。
ちなみに今回の「習ちゃん電話」企画は、今年2月の元宵節(げんしょうせつ、旧暦の小正月)にも似たページが準備されるなど、実は過去に何度か行なわれている。複数回実施されているのは、効果が割とあるせいかもしれない。
中国都市部のスマホ普及率は9割以上に達し、“現代のアヘン”と呼ばれるほど常にスマホを手放さない中国人は多い。暇つぶしでゲームや動画に触る国民に影響力を拡大すべく、政権はあの手この手を使っているのだ。
次なる展開は、人工知能でユーザーと会話できる「習ちゃん電話Ver.2」あたりだろうか。独裁政治は笑えないが、柔軟なアイデアにだけは敬意を表したい?
(取材・文/安田峰俊)