来年の開館が予定されている和歌山市“ツタヤ図書館”にさらなる疑惑が!?
昨年12月、同市の市民図書館の指定管理者にTSUTAYAを展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が選定されたが、その行政処分そのものが法律で定められた所定の手続きを踏んでいないと指摘されているのだ。これにより、新図書館の計画が白紙にもなりかねない…そんな火種が人口35万の街にくすぶっている。
発端は1本のブログだったーー。2月19日、和歌山市在住の金原徹雄弁護士が『CCCを和歌山市民図書館の指定管理者に指定した行政処分は無効かもしれない』と題したブログを発表。
和歌山市は昨年11月に市民図書館の運営者(指定管理者)を公募し、CCCを選定した。そのことを報告した翌月21日の教育委員会において「事前に教育委員会のご承認をいただく必要があった」のにそうしなかったことを図書館長が陳謝している発言を見つけた金原氏が、この手続きには重大な瑕疵(かし)があると指摘したのだ。
そのブログ上では『図書館の指定管理者を決定する主体は、市長ではなく教育委員会である』、『教育委員会は、選定委員会の意見を聴いて、指定管理者の候補者を選定しなければならない』、『この手続きを経たうえで指定管理者の承認について議会の議決を経なければならない』と法的理論を逐一解説。
つまり、選定委員会→教育委員会→議会の順番で手続きを踏んで初めて、指定管理者決定が有効になるというわけだが、CCCを指定管理者に決定したプロセスでは、このうち教育委員会の手続きがスッポリと抜けていた。
有識者で構成される市の選定委員会でCCCが選ばれたのは昨年11月24日のこと。その議案が12月6日に市議会に提出され、9日後の15日に議決されたが、その間に教育委員会の会議は臨時会、定例会ともに一度も開催されていない、というのだ。
すると、このブログに敏感に反応したのがツタヤ図書館誘致を推進する保守系議員だった。3月15日に開催された本会議期間中の経済文教特別委員会で突然、この件を持ち出すと、ブログの内容は間違いで、市民図書館の指定管理者決定には「なんら問題はない」と反論した。
「ここからは秘密会にします」だらけ
この発言者である松井紀博市議は「議会の中では積極的にツタヤ誘致を進めてきた議員のひとりで、市議会の最大会派・至政クラブに所属し、副議長職も務めたことのある重鎮」(市議会関係者)。所属する経済文教委員会での発言力は絶大だという。
ちなみに昨年末、「まるでCCCの営業マンみたい」と地元で揶揄(やゆ)されていると週プレNEWSの記事で紹介した戸田正人市議とは同期で同じ会派だという。本人を直撃したところ…、
「金原弁護士のブログが市民にいらぬ誤解を与えてしまっていましたので、それを正しただけ。教育委員会での必要な手続きはちゃんと事前に取られています。11月9日開催の定例会で教育長が“臨時代理”する承認を委員全員から得ています。その権限を元に教育長が11月29日に執行していますので、(議会での議決前に行なうべき)手続きにはなんの問題もないんです」
松井市議によれば、11月9日の教育委員会定例会で図書館の指定管理者に関して話し合われた内容が会議録を一般公開しない「秘密会」扱いになっていたため、その時の経緯を金原弁護士が知らなかったために起きた誤解ではないかと言う。
だが通常、教育委員会組織において、その議題に関する内容を一般には公開しない時、「ここからは秘密会にします」と宣言して会議録を非公開とするのは人事案件だけのはず。なのに、市民図書館の指定管理者選定に関するその定例会では「非公開」とされることが多い。
そもそも、教育委員会という機関の決定を教育長がひとりで代行するなどということが本当に行なわれていたのだろうか、またそうした行為は、果たして適法なのだろうか。その法的根拠については、和歌山市教育委員会の規則に以下のような条文がある。
『教育長は、緊急やむをえない理由により教育委員会の議決を得ることができない場合には、これを臨時に代理することができる』
とはいえ、事前承認があれば教育長がひとりで教育委員会としての決裁を可能にしたこの条文が導入されたのは、2016年9月のこと。翌年5月の指定管理者制度導入を控えて、予(あらかじ)め準備されていたのか?と勘繰りたくもなるタイミングである。
ブログを書いた金原弁護士も、このような規則で進められたのであれば「教育委員会の手続きもなされたことになり選定手続きは有効だろう」と話すが、それにしても「緊急やむをえない理由」という規定が曖昧(あいまい)なので、正式な判断は今、市民が行なっているこの部分に関わる行政文書の開示請求結果を待ちたいと慎重な姿勢を崩していない。
「緊急やむをえない理由」は本当か?
そして、ある図書館関係者はこうした和歌山市の姿勢をこう批判する。
「市議会の承認が必要なものを、しかも年間3億円、5年間で計15億円にもなる事業に絡むものを教育長が代理で決裁することは考えられません。このようなことができるのなら、(政治から独立して教育行政を司る)教育委員会という機関は不要となります。
一般的には、このような重要な案件については定例会の日程を遅らせたりずらしたり、臨時会を開いたりします。全体の進行はできているので、教育委員会の日程上採決できないのは少なくとも数ヵ月前からわかっていたはずです」
事実、和歌山市教育委員会の開催スケジュールを見ると、臨時会は17年度は1回、16年度は3回も開催されている。なのに市民図書館の運営を一企業に任せる重要な案件で開催しないのは不思議で仕方ない。
法律の専門家も知らなかった教育長の臨時代理権というウルトラCを駆使してまで秘密裏に進めたのは、先行する自治体で起きた他のツタヤ図書館にまつわる悪評を元にした批判を避けるためだったのでは?と言う市民もいる。
「5月の定例会の会議録も図書館の部分が非公開でしたので開示請求してみたところ、ひとりの委員がその時に2階児童フロアの『安全性に問題はないか』と質問していました。きっと本を山のように積み上げていたツタヤ図書館風のイメージ画像があったのでしょう。指定管理者選定前に臨時会を開催しなかったのは、教育委員からそういったツタヤ図書館批判が出ることをできるだけ避けたかったのでは…」
市当局としては、なるべく議論はしたくないのだろう。ある自治体関係者は和歌山市・ツタヤ図書館を巡る一連の疑惑について「まるでゴミ処理場の建設みたい」と漏らしたが、そのひと言にこの問題のおかしさが集約されている。
では一体、今回どのような「緊急やむをえない理由」があったのか? 和歌山市民図書館・図書館設置準備班の宮地功班長はこう回答した。
「本当はもっと早く進めるつもりだったが、事務手続きの都合上、選定委員会の開催が遅くなり、議会提出前に教育委員会を開催することができなかった。そのため仕方なく教育長の臨時代理ということになってしまった」
なお、昨年末に報じた当サイトの記事中で「選定スケジュールが異様にタイトなのは何か特別な事情があったのか?」と記者が質問した時には、同じ責任者からこんな回答があったことを付け加えておきたい。
「5月の教育委員会で決まっていたことで、その予定通りにさせてもらったというのが実情でございます」
「予定通り」とは「緊急やむをえない理由」など何もなかったことの証左ではないだろうか?
(取材・文/日向咲嗣)