「一冊一冊の本を大切にして、黒字は無理でも続けたい。書店が消えてしまえば『本との思いがけない出会い』もなくなる。なんとか売れる方法はないのかと、あがいてみたい」(柳店長)

「大入り満員」の願いを込めて、書店の名前は「フルハウス」。4月9日、芥川賞作家の柳美里(ゆう・みり)さんが、福島県南相馬市の自宅を改装して書店をオープンした。配る名刺の肩書は「店長」だ。

「立ち読み大歓迎。本の扉を開けば、その先には一冊ごとに別世界が広がります。学生は本を買わなくてもいいので(笑)、電車の待ち時間に立ち寄って新しい世界に出会ってほしい。地元の人だけでなく、遠方の人も気軽に立ち寄れるような居心地のいい空間にしたいですね」(柳店長)

お店を構えた同市小高(おだか)区は東京電力福島第一原発事故後に全住民が避難。避難指示は2016年7月に解除されたが、事故前の住民約1万3千人のうち、戻ってきた人は約2500人にとどまる。

「夜は街に人が少なく、電車も1時間から1時間半に一本しかない。最終電車が出る21時20分まではお店を開けて街に灯をともします。自分の本をお客さんが買う瞬間に立ち会えるのが楽しみ」(柳店長)

執筆の合間に接客もする。会いにいける作家の誕生だ。

柳さん自身が選んだ本のほか、交流のある作家24人から推薦された本、約5千冊が並ぶ

柳さんは2015年4月に鎌倉市から南相馬市に移住。店舗はJR常磐線小高駅から徒歩3分

5月には主宰する劇団「青春五月党」を旗揚げし、10月には敷地内に小劇場もオープン予定

(取材・文/畠山理仁 撮影/小川裕夫)