現在、『週プレNEWS』で連載中のマンガ『セックス依存症になりました。』ーー本作がデビュー作となる漫画家・津島隆太氏が自身の壮絶な実体験をベースに性依存症の実態、そして克服への道のりを描く異色作が話題となっている。
連載開始時には、依存症や性問題の専門家と津島先生による対談も配信公開し大きな反響を呼んだが、第2弾となる今回は『マンガで分かる心療内科』シリーズ(少年画報社/作画:ソウ)原作者としても知られる精神科医・ゆうきゆう先生が登場。
性にまつわる多様な分野のエキスパートと依存症当事者による対話を通して、さらに知られざる「性依存症」の正体を解明していく。
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ゆうき 漫画『セックス依存症になりました。』は津島先生の経験がベースと聞きましたが、かなり壮絶ですね。「性依存症が原因で、女性にハンマーで頭を殴られる(第6話 ハンマー事件を参照)」という「底つき状態(依存症が原因で、なんらかのトラブルなどが起こり身体的・金銭的に立ちゆかなくなること)」を経験されてから、セックスはされてないのですか?
津島 はい。自分が依存症だと気づいて通いだした自助グループ(同じ症状を持った依存症患者が交流することにより、症状の回復を目指す取り組みをする集団)の方針に従い、この1年間、セックスは一切していません。マスターベーションも4ヵ月断ちました。
ゆうき それはツラかったんじゃないですか? 特に、相手が必要なセックスとは異なり、ひとりでもできてしまいますよね。
津島 ええ。ひどい時期は仕事中だろうとなんだろうと、毎日3時間おきにしないと気が済みませんでした。最もツラいのは寝ている時で、睡眠中でも3時間経つと我慢できずに起きてしまう。そんな生活を続けていたので「マスターベーションを断ったりしたら頭がおかしくなってしまう」と当初は絶望していたのですが、いざやめてみると欲望が次第に薄れていくのに自分でも驚きました。
ゆうき それはいい傾向ですね。現在の状態はいかがでしょう。
津島 それが最近、一度スリップ(再発)でしてしまいまして...。
ゆうき なるほど。しかし、節度を守ったマスターベーションで適切に性欲がコントロールできていれば、他人に迷惑をかけることもないのではないですか?
津島 それが、直後に無性(むしょう)にセックスがしたくなりまして...以前、付き合っていた女性に連絡を取ろうとしてしまったんですよね。冷静に考えれば、交際してもいない女性を性行為目的で呼び出そうとするなんて異常じゃないですか。結局、セックスには至らなかったのですが「マスターベーションをしておかしくなってしまった」と後悔しました。
ゆうき 4ヵ月我慢していてスリップしたら落ち込む気持ちも理解できます。しかし、どの依存症でも"完治する"ことはありえません。ということはすなわち、回復からの道のりで多少失敗しても、人に迷惑をかけなければ気に病むことはないんですよ。一度や二度の失敗で自暴自棄になるのではなく、「一回失敗したら、また挑戦してみよう」と途中経過を楽しむことが大事。
オール・オア・ナッシングではなく、小さな失敗も含めた回復へのプロセスをエンジョイしてみてはいかがでしょうか。今、小さい頃の失敗を「あんなこともあったよな」と思い返すように、現在の状況も80歳になったら「あの頃は大変だったなあ」と思えるようになりますよ。
―前回、この漫画の監修も務められている精神保健福祉士の斉藤章佳(あきよし)氏にお話を伺った際、「依存症については専門家の中でも定義が分かれている」と仰られていました。境目があいまいなことで、自分が依存症であると気づくのが遅れ、深みにはまってしまう人も多いとか。
ゆうき 一番わかりやすい境界は「その行為を続けることによって自分や他人が困るかどうか」だと思います。例えば、依存症によって痴漢や窃盗などの違法行為をしてしまえば、それは"困る"の最たるものですよね。『セックス依存症になりました。』でも紹介されているように、自己診断テストをやってみるのも初期段階で気づくひとつの手だと思います。
津島 私の「嗜癖(しへき)」(熱中しすぎるとやめられなくなる行為)は「処女である若い女性とのセックスがやめられない」というものでした。それも、恋愛関係にある女性とでないとダメ。風俗などで性行為をしても欲望が満たされないんです。
ですから、依存症によって犯罪に足を踏み入れることこそありませんでしたが、作中でもあるように性行為がどんどん過激になっていったり、女性とトラブルになり暴行されたり...このまま依存が進んでいけばもっとエスカレートしていったと思います。
―単刀直入にお聞きします。ずばり、性依存症から抜け出す方法はないのでしょうか?
ゆうき 性依存症に限らず、依存症からの回復方法として一般的なのは「物理的に隔離する」というもの。アルコール依存症であればお酒を捨てる、ギャンブル依存症であれば現金を持たない、といった具合ですね。これは、津島先生も「セックス断ち」で経験されていると思います。
しかし、依存症とは行き場のないストレスや欲求不満など様々な要因によって引き起こされるもの。ですから「元を断つ」というアプローチはシンプルで一定の効果はあるものの、逃げ場を失った欲求が暴走して、他の依存症に陥ってしまうかもしれない。とりわけ、人間の一次的な本能である「性」のパワーは強いですからね。
津島先生が自身の体験を生かして漫画を描かれているように「夢中になれるもの」を見つけて、そこにエネルギーをぶつけるのも効果的だと思います。これがいわゆる「昇華」というものですね。
津島 確かに、私の症状が今落ち着いているのも、漫画の連載が続けられていることが大きいです。自分自身の体験をテーマに描くことは、自分の過去を見つめ、依存症と闘っていく決意を新たにすることでもありますから。
―一般的な依存症に悩む人には、どのような行為が代替されるものでしょう?
ゆうき 漫画でなくても、例えば「日記をつける」という行為もいいですね。ポイントはその日、起きた事実に加え「褒(ほ)め言葉」を書くこと。「今日は学校へ行き、授業を受けた」という事実だけでなく、「ちゃんと学校へ行って授業を受けられた。私、偉い! 頑張った!」といった風に。日記というものはついついネガティブなことを書きがちなので、強制的にでも「褒め言葉」をひねり出して「自分を肯定する癖」をつけるのが大切です。
―「ポジティブ日記」は、誰でも簡単に始められそうですね。
津島 確かに、私と同じ自助グループに通っている方も「自尊心の欠如」はよく口にされます。ポジティブなワードで無理にでも自分を受け入れてあげるのは効果がありそうですね。
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漫画を描くことが治療行為としても大切だと学んだ津島氏。次回、6月30日(土)配信予定の後編では、男なら誰でもやっていそうな"エロ動画収集"にまつわる危機について学ぶ!
■ゆうきゆう
精神科医・マンガ原作者。東京大学理科Ⅲ類(医学部)に現役入学、東京大学医学部医学科卒業。2008年より「ゆうメンタルクリニック」を開院。「東京脱毛クリニック」など幅広い展開もしている。著書に『逃げ出す勇気』(角川新書)、『マンガで分かる心療内科』シリーズ(少年画報社/作画:ソウ)など。
■津島隆太(つしま・りゅうた)
年齢、出身地ともに非公表。長く漫画アシスタントを務め、4月13日(金)より自らの経験を描いた『セックス依存症になりました。』で連載デビュー。