増えすぎた特定外来生物・カミツキガメの根絶に挑むカメハンター・今津健志さん

日本一のカミツキガメ繁殖地となってしまった千葉県・印旛沼(いんばぬま)エリアで、昨年よりカメを捕獲すべく千葉県の専門職員として採用された青年研究者は、愛するカメとどう戦っているのか?

■のどかな田園にカミツキガメ出現

大きな口にするどい爪、長いしっぽ。まるでガメラを思わせるフォルムのカミツキガメが千葉県の印旛沼エリアで大繁殖している。

もともと1960年代にペットとして北米から輸入され、成長すると甲羅の長さは50cm、体重35kgにもなり、平均寿命は40年ということから、飼いきれなくなった人が逃がして野生化したのだ。

雑食で従来の生態系を破壊、子供の指などは軽く食いちぎる凶暴さ、そして農林水産業への被害もあることから2005年には特定外来生物に指定。飼育、保管、運搬などは原則禁止になっている。

07年から千葉県は捕獲を開始。当初は生息数1000頭と推定されていたが、年間300頭ペースで捕獲しても減る気配がなく、15年に新しい方法で再調査。すると推定1万6000頭もいるということがわかった!

そこで16年11月、千葉県は任期3年の「カミツキガメの捕獲体制の構築を目的とする」専門職員を募集。採用されたのが大学と大学院でカメの研究をしていた今津健志(たけし)さんなのだった。

2年目に突入した彼の仕事っぷりに密着すべく記者は印旛沼へ。この日の現場は佐倉市内の川沿いにある田んぼ。まだ田植えをしたばかりで苗は小さく、時折鳥がさえずる。こんなのどかな場所に、あの恐ろしいカミツキガメがいるのか?

印旛沼の湖畔にはカミツキガメに注意する看板が。見つけた場合、一般の人は捕まえたりせず、自治体や警察へ連絡するルールとなっている

そして今津さんはいかついハンターのイメージからはほど遠い、生物好きの優しそうな青年だった。

「ここ一帯、およそ400m四方がカミツキガメが多数生息する場所です。これから2日前に仕掛けた24ヵ所のワナを確認します」

ワナが仕掛けられているのは田んぼの水路。網の奥にエサのサバの頭をつるし、それを目がけてカミツキガメが入ると、ワナの中には"かえし"がついており、外へ出られず捕獲成功という仕組みだ。

ひとつ目のワナを水中から引き上げる。中には大量のクサガメ。駆除の対象外なため、数を数えてそのまま逃がす。ワナはカメ全般用でカミツキガメ以外のカメもよく入っているとのこと。ふたつ目のワナはザリガニが入っているがカミツキガメはいない。

次のワナを仕掛けた場所へ。田んぼと水路の間を歩くので、足元はぐちゃぐちゃ。そして葦(あし)が視界を邪魔して歩きづらい。なぜコンクリートにしないのか?

「いいところに気づきましたね!」

そう話すのは今回同行していただいた千葉県生物多様性センターの小野知樹さん。

小野「水路をコンクリートにした場所でカミツキガメはほぼ見かけません。ただ、ほかの生物もいない。生物の多様性を考えると今のままにしておきたい。カミツキガメだけ防除できればいいのですが」

生物が暮らしやすい環境は当然、外来種も暮らしやすい。カミツキガメがここまで増えたのは、このエリアの環境の良さにも原因があるわけだ。

勢いよく首を伸ばすカミツキガメ。歯はないが、カッターのように敵を切りつけることができる

さらにワナの確認を進める。

今津「ああっ、いたぞ!!」

引き上げたワナにカミツキガメがいる。初めて実物を見たが、すごくカッコいい! 男のコだったらきっと欲しい。

小野「そうなんです。カッコいいんですよ。でも飼うのが大変で手放しちゃう。人間の身勝手ですよね」

同行のカメラマンも興奮してシャッターを押し続ける。するとレンズに向かってカメの首がギュンと飛び出した。

小野「注意してください。この前、テレビのカメラマンはレンズのフィルターを割られていました」

すごい! そんなにパワーがあるのか。そしてカメといえばゆったりしたイメージだが、カミツキガメは素早い。

おもむろに今津さんがカミツキガメを地面に置く。そしてカメの背後に今津さんが回ると、カメもクルッと後ろを向いた。さらに回るとカメもくるり。とにかく敵に背中を見せないように動く。まるでアマレスの選手みたいだ。

今津「せっかくなのでカメのにおいを嗅いでみますか?」

顔を近づけるとものすごく臭い! たとえるなら寝起きのおっさんの息のような、何かが腐ったにおい。

今津「カメは興奮すると脇の下のような部分からにおいを出します。そしてそのにおいは食べているものが影響している。ここのカミツキガメは雑食なのでにおいが独特です。私の家で飼ってるカミツキガメはコイのエサを食べているからか、あまりにおいません」

捕獲後、すぐに大きさを測定。首は180°後ろにまで反り返るので後ろ足を持たないと危険カメを捕獲したら、ワナに新しいエサをつけて、再び水路に沈める

■防除ノルマは達成できるのか?

結局、この日は24のワナを引き上げて、カミツキガメ19頭(オス11、メス6、不明2)。ミシシッピアカミミガメ2頭(オス1、不明1)、そしてクサガメ121頭(オス23、メス97、不明1)だった。

千葉県が設定している今年のカミツキガメの防除目標はメス1250頭。1ヵ所でこれだけ捕れれば簡単に実現できそうですが......。

今津「そううまくはいかないのです。ワナによる捕獲は5月10日にスタートしたばかり。今はたくさん捕れるんですよ。昨年もある場所で1回目に40頭、2回目も30頭。4回で100頭を超えたのですが、それからぱったり。トータルで20回ワナをかけて176頭でした」

なかなか難しいんですね。でも毎日好きなカメを捕って楽しそうです。

今津「そんなことないです。普段はワナの使い方を自治体や農家に指導したり、研究がメインで、自分で捕ることは少ないです」

そもそもこの仕事を始めたきっかけは?

今津「大学と大学院でカメの研究をしていて、ちょうどこの求人があったんです。友人からは好きなことを仕事にできてうらやましいと。親も県職員というちゃんとした仕事についたのを喜んでくれて。まあ任期が3年なので先のことはわからないですが」

この日捕まえたカミツキガメは19頭。ワナの数は24なのでかなりの高確率。だが少ないときは1割にも満たないという

そう考えたら捕獲ノルマの達成は必須なのでは?

今津「もちろんそうですが、新たな捕獲方法を考えるのも自分の仕事なので。今、考えているのはカメの隠れ家みたいなワナを作れないかと」

ゴキブリホイホイみたいなものですかね?

今津「今はエサが必要なんですけど、なくても集められるものが作れたら」

ちなみに今回捕獲したカミツキガメはどうなるんですか?

今津「事務所へ持ち帰って、もう一度正しいサイズを測ります。それから冷凍庫に入れて安楽死。それが一番カメにとっていい方法なので」

永久に冬眠となるわけですね。でもカメ好きとして、カメを捕まえるのにためらいはないですか?

今津「最初はありましたけど、今はないですね。仕事としてカメを減らさないと」

周りからカミツキガメハンターと言われることについてはどう思われますか?

「まあ自分から名乗ったものではないし特にないです。でも研究者の仲間からはワナの捕獲でなく、手探り捕獲がすごいといわれていました」

それはどうやるんですか?

「主に冬場ですね。カミツキガメがいそうな水路に手を突っ込んで捕まえる。冬は動きが遅いので、昨年は300頭ほど捕まえました」

すごい! ゴッドハンドじゃないですか!! でもいきなり手を突っ込んでかまれたりしないですか?

「頭に手が当たっても最初は異物としか思わないんですよ。頭の位置がわかったら、反対側が足。攻撃される前に一気に捕まえる」

ちなみに仕事中にカミツキガメにかまれた経験は?

「一度もないです。でも先日、家で20年近く飼ってるカミツキガメにガブッと。エサと間違えられたみたいですね」

今後、気温が上昇するとカミツキガメの活動も本格化する。戦いも激しさを増していくことだろう。カミツキガメがこの地から姿を消すその日まで、頑張れ今津さん!

2歳とのことだが、すでにサイズはライターの手のひらほど。ほかのカメと違って、首やしっぽを甲羅内に引っ込めることができない

●今津健志(いまず・たけし)
カメハンター。千葉県出身、幼少期より生き物に興味を持ち、中学時代からカメを飼い続ける。明治大学大学院農学研究科を修了。ペットショップや生物の調査会社のアルバイトを経て県職員に。現在34歳