撮影時、「普通にキメてもつまらねぇだろ!」と、にスイカに噛り付いた桜井章一さん。さらに、スタッフにもスイカを振舞っていただいた 撮影時、「普通にキメてもつまらねぇだろ!」と、にスイカに噛り付いた桜井章一さん。さらに、スタッフにもスイカを振舞っていただいた
裏社会の利権が渦巻く裏麻雀の世界。その真剣勝負の場で裏プロとして20年間無敗の記録を築き、"雀鬼"と呼ばれるのが桜井章一だ。現在は"雀鬼流"の麻雀を指導する道場・雀鬼会で育成に励む傍ら、書籍の執筆も勢力的に行なっている。

5月に上梓された新刊『究極の選択』では、人生の様々な局面で出会う難問に回答! 究極の選択の場で打ち勝ってきた雀鬼ならではの名言がたっぷりと詰まっている。

そんな"雀鬼"桜井章一の素顔とは一体――? 雀鬼流の道場を訪ね、伝説の勝負師の揺るぎない世界をたっぷり堪能させていただいた!

―「人生の難問」に答えるという本ですが、とんでもない質問にも優しく答えています。

桜井 いや、「優しい」じゃないな。優しいなんて、俺からしたら女々しいよ。むしろ卑しい言葉だね。女の人は「優しい人がいい」とか言うけど、優しいフリなんていくらでもできるから。優しさを売り物にするヤツはインチキですよ。大事なのは、心から発している言葉かどうかなんです。だから質問を聞いた時にふと出てきた言葉の中から選んで答えてるってだけ。

―その「選ぶ」ということに関して、本の中には「今の若い人は選択するのが苦手だ」という内容がありました。確かに、選択肢が多すぎて悩む時代かもしれません。桜井さんは人生の局面で選び続けてきた今だと思うのですが。

桜井 今は「選ぶ」こともマニュアルになっているからね。学問もそうだけど、答えがあるものを選んで、選んだものが〇だったら「いい成績」ということになる。そしていい成績を残せば、レールに乗っていい会社に入れる。そんな風に社会システムがもう出来上がっているから。

だから個人で本当に「選ぶ」という状態は今、ほとんどないんじゃないですか。親や先生、社会のアドバイスに準じて選ぶわけだし。ふっと湧いてくる「選ぶ」って感覚とはまた違うと思いますよ。

―そのふっと湧いてくるものは、直感ということですか?

桜井 直感というか本能的なもの。だから、まずは「選ぶ」前に状況・状態を把握するのが大切。今どういう状態なんだろうってことを自分で感じ取って、その上で自分で選ぶっていうこと。でも現状って、社会からのニュースですら嘘が流れているし、状態・状況がわからない。だからもう嘘を選んでいるようなものだね。

―確かにインターネットでもフェイクニュースなど判断がしづらいものはあります。

桜井 ニュースが真実じゃないかもしれないって、インターネットで初めてわかったわけじゃん。でも実際にはマスコミ、いわゆる大新聞が書いていることもホントは大して変わらないんだよ。真実を書いているか、うやむやに書いているか、権力側の都合で書いているかというのはね。

―では、その判断は何を頼りにすればいいのでしょう?

桜井 知識ではなく、いろいろな分野の現場を知らないと難しいでしょうね。俺たちの場合、いろいろな人とご縁がある中で、いろいろな分野の現場の人物と実際に触れ合えちゃうんですよ。表向きはきれいな商売をしているけど、実は政治的な汚い仕事をしているヤツとかもね(笑)。で、国民にお金が流れるんだよって報道があっても、流れるわけないとわかったりする。

たまたま俺はそういう裏の世界の悪い人と触れ合えたりするから。そういう意味じゃ、今のコはかわいそうだと思うよ。お父さん、お母さんを信じればいいかというと、その人たちも何かに染まっちゃったりしてるし、毎日毎日の情報が嘘っぽいしね。

―子供といえば、この本では「いじめで学校に行きたくないけど、対応策は?」といった質問にも、弱者の視点に立って丁寧に答えているのも印象的です。

桜井 いや、丁寧ではないよ。弱い者、小さい者、できない人からのほうが学びがあるってだけ。俺からすれば逆に、大きいものからは学べないね。例えば、子供はまず何を選択するかっていうと、いたずらですよね。何万円もするコーヒーカップだって平気で割る。大人だったら、安い茶碗とは一緒にしたくないなって扱い方も気にするけど、子供には関係ない。それで、割っちゃったらお母さんに叱られるんだろうけど、それも彼らの選択。

子供の選択には損得が入ってないし、価値観もまだ入ってない。そこからだんだん価値観を身につけることを人は成長と言うんだよ。だから人の成長なんて、いかがなものかと思っちゃうね。全部が子供だったら戦争なんか起きないし、核を作ろうともしない。成長したから核に届いてしまう。

―いったん知識を得たら、使おうとしてしまうと。

桜井 知識と言うより「能」でしょうね。「能」を生かして社会から評価してもらおうとするし、そんな人間を求めているのも社会なんでしょう。俺からすると、そんなものクソくらえってのがどこかにあるんです。国が素晴らしければ国から何かいただくのはいいけど、今の日本は「ふざけんなよ」って文句も多い国じゃないですか。そんなところから何かもらったからどうなんだよって。

俺は決して反社会的な人間じゃないけど、この社会を見ていると、自然にそういう姿が見えてきちゃうんですよ。

―確かに物事は見たままではなく、成り立ちや背景があるのかと気付くと複雑です。

桜井 小さい者からのほうが学べるという話に戻すと、道場でこの間、イモムシを飼っていたんだよね。卵が産み付けられている木を見つけて持って帰ってきたんだけど、それが徐々に変化してサナギになって、蝶になって飛んでいった。そうやって小さい生命が生まれてくるじゃないですか。でも奴ら自由に飛び立って行った後、生きられるのはたかが何十日ですよ。

でも、卵から幼虫、サナギ、蝶という4つの周期で変化すること自体の大切さを教えてくれる。今は社会もでかくなることがいい、広がることがいいと結果だけを求める傾向があるけど、小さな変化や経過が大事だということを小さな生命から教わるんです。

―大事なのは結果だけではないと。

桜井 それから「損得」だけでもない。あそこにいる道場生のコは、いつも「いらない」とか「結構です」と言っていて、欲ってものを見たことがない。すげえなと思うし、俺は欲張りだなと思う。別のあのコなんか4時間かけて茨城から来ていて、麻雀を打ったらまた4時間かけて帰る。損か得かっていうと、えらく損してる。そうやって社会的には「損」してるヤツを見ると、すげえなと思うよ。

損得だけで物を見ない存在が側にいるってことは、俺にとってユンケルみたいなものなんです。エネルギーをくれるというか。そういう存在が俺の今日を、明日を作ってくれる。俺を生かしてくれてるんだよね。

●後編⇒裏麻雀の世界を生きた雀鬼・桜井章一が現代に思う「今の社会は農薬人間だらけ」

■桜井章一(さくらい・しょういち)
東京都生まれ。昭和30年代から麻雀の裏プロの世界で勝負師としての才能を発揮。"代打ち"として20年間無敗の伝説を築き、"雀鬼"と呼ばれる。現役引退後は麻雀を通した人間形成を目的とする雀鬼会を主宰。著書に『努力しない生き方』(集英社新書)、『人を見抜く技術』(講談社+α新書)、『運を支配する』(藤田晋との共著/幻冬舎新書)他多数。

■『究極の選択』(集英社新書 定価:本体720円+税)