ヒアリと同じ南米原産の外来種「アルゼンチンアリ」を根絶させたことでも知られる国立環境研の五箇氏。ヒアリをはじめ自作のイラストがずらり。ヒアリ・バスターズの隊長だ ヒアリと同じ南米原産の外来種「アルゼンチンアリ」を根絶させたことでも知られる国立環境研の五箇氏。ヒアリをはじめ自作のイラストがずらり。ヒアリ・バスターズの隊長だ

昨年、日本中を震撼させたヒアリが今年も日本に次々と上陸中だ! 

この厄介者との闘いはいったいいつまで続くのか? もし定着してしまったら有効な手立てはあるのか? 経済のグローバル化が生んだ「生物のグローバル化」に果たして終わりはあるのか......?

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昨年、国内で初めて確認され、全国の港湾施設に次々と姿を現した特定外来生物のヒアリ。南米原産で、強い毒針を持つことから「恐怖の殺人アリがついに上陸!」などと話題をさらったが、今年もこの厄介者は"日本侵攻"を開始している。

6月には大阪港で陸揚げされたコンテナの中から2000匹以上、7月には名古屋港で約20匹が見つかるなど、各地でヒアリとの闘いが始まっているのだ。

「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定され、すでにアメリカ、中国、オーストラリアなどに広まっているヒアリの定着を、日本は防ぐことができるのか......?

2年目を迎えたヒアリ対策の現状を、この問題の第一人者で国立環境研究所・侵入生物研究チームの五箇(ごか)公一氏に徹底解説してもらった!!

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―今年も大阪や名古屋の港でヒアリが確認されていますが、それ以前に、昨年、日本に上陸したヒアリはすべて根絶されたのでしょうか? 一部が越冬して、日本に定着している可能性はありますか?

五箇 昨年、日本で確認されたヒアリは全部で数千匹程度です。確認できていないものを含めれば、おそらく1万匹を超える数のヒアリが流入したと推測されますが、見つけたものは駆除しています。

とはいえ、女王アリと働きアリのセットが偶然、彼らの生息に適した土地にたどり着き地中に入り込んでいたら、そこから定着して増える可能性は否定できません。

何しろ相手は小さなアリですから見つけるのも簡単ではないですし、外来種がある程度の数まで増えて「定着している」と気づかれるまで、一般的に「10年はかかる」といわれています。

―じゅ、10年ですか!?

五箇 もちろん生物学的に言えば暖かい環境を好むヒアリが、北海道や東北など「関東以北」の冬を越えて生き残る可能性は低いと思います。

しかし、1995年に日本に上陸したオーストラリア原産で毒を持つ「セアカゴケグモ」が、今や北海道を含めた44都道府県に広がってしまったことを考えると、ヒアリの定着も100%ないとは言い切れません。都市部の人が暮らす場所には人工的な暖かい環境もありますからね。

大阪府内で購入された輸入品の箱内で確認された「ヒアリ」の女王アリ。アメリカ、中国、オーストラリアなど生息域を次々と広げている 大阪府内で購入された輸入品の箱内で確認された「ヒアリ」の女王アリ。アメリカ、中国、オーストラリアなど生息域を次々と広げている

―コンテナ貨物などに乗って日本の港に上陸しているヒアリですが、その"主な輸出元"はすでに特定できているのでしょうか?

五箇 これまでヒアリが発見されたケースから見て、主に中国・広州、香港や台湾などから入ってきていると考えて、ほぼ間違いないでしょう。

ですから中国で出荷される時点でコンテナの中に殺虫剤を入れてくれれば、防除対策としては最も有効で、日本の環境省も中国側にそれを求めてきました。

ところが、彼らは「中国の国際港湾からヒアリが出ている証拠はないし、自分たちはきちんと管理している」という立場を崩さないので、そうした対策を打ってくれません。

―それはなぜでしょう?

五箇 これには高度な政治的事情があって、今、ヨーロッパから中央アジアを経て東アジアまでをつなぐグローバル経済圏、「一帯一路」政策を推し進めている中国としては、自分たちが「国際港湾のヒアリ対策ができていない」とは公に認められないのです。

ただし、彼らは一帯一路を推し進める上で、港湾施設のヒアリ対策の重要性をよく理解しています。私は4月に中国に行ってきましたが、広東省だけでもヒアリの防除に年間20億円ぐらいを投じていますし、同省の広州市にある華南農業大学では「ヒアリ研究センター」を立ち上げるなど、防除対策は大幅に前進していると思います。

―つまり、表向きは責任を認めていないけれど、真剣に対策は続けている......と。

五箇 そうですね。中国側の対策が実効性を持つことが、日本のヒアリ対策にとっても重要なキーポイントになります。ただし、すでに広州ではヒアリが広範囲に定着しているので、完全に「元を断つ」までには最低でも10年ぐらいはかかるでしょう。

つまり、それまでは世界最大規模の貨物扱い量を誇る広州の港から、ヒアリがアジア中に広まり続けてもおかしくない。当然、日本だけでなく韓国や、より温暖でヒアリの生息に適した東南アジアの国々にも拡散・定着する可能性があるわけで、この先、ヒアリの侵入経路がさらに多角化してゆくリスクも想定しなければなりません。

◆『週刊プレイボーイ』31号(7月14日発売)「最低でもこの先10年は対策が必要!!ヒアリ・バスターズ2018 終わりなき外来生物との闘い」より