2020年東京五輪の競技日程が発表された。7月22日から(開会式は24日)8月9日までの19日間で、史上最多の33競技339種目が行なわれる。
このスケジュールでの開催で何より懸念されるのが、期間中の東京の気候だ。
7月23日には青梅市の最高気温が40.8℃となり、観測史上初めて都内で40℃超えを記録するなど、今年の東京は連日の猛暑。もし2年後も同じような状況になれば、選手の体に重大なダメージを与える事態まで起こりかねないのではないだろうか。
7月下旬から8月上旬にかけての東京の気象状況を『ひるおび!』(TBS系)でおなじみの気象予報士・森朗氏が解説する。
「20年東京五輪の日程を知ったとき、正直私は『ありえない』と思いました。というのも、この時期の東京は太平洋高気圧とチベット高気圧が強く、加えて山越えの風がフェーン現象的に吹き降ろしてくると、今年のような酷暑になるからです。
また、過去には7月22日の段階でまだ梅雨が明けていなかった年や、結局夏を通じて梅雨が明けなかった年があるように、ずっと雨が続いている可能性も捨てきれない。また、酷暑時にはゲリラ雷雨が起こりやすくなり、冷夏になったらなったで気圧配置的に台風が近づきやすかったり、前線の大雨に見舞われたりする。つまり、どう転んでもなんらかの心配事がある時期なんです」
その意味で前回、つまり1964年の東京五輪が10月10日から24日にかけて行なわれたのは、考えに考え抜かれた日程だったといえる。
「苛烈な夏を越し、秋の長雨が明けるのが例年10月10日あたり。そこから11月上旬にかけては非常に天候が安定し、過ごしやすくなります。ただ、11月に入ってしまったら肌寒さも感じるので、前回の東京五輪の開催期間は、東京でスポーツイベントを開くにはまさに最適の時期だったわけですよ」(森氏)
だが、過酷な気候下でも、すでに確定した日程で五輪を実施するしか選択肢はない。そこで大会組織委員会は暑さ対策として、マラソンを当初予定の午前7時半から午前7時へ、男子50km競歩を午前7時半から午前6時へ、ゴルフを午前9時から午前7時へなど、いくつかの屋外競技のスタート時間を繰り上げたのだが......。
「砂漠の都市の夏でさえ、朝晩はけっこう気温が下がるのですが、真夏の東京は一日の最低気温が30℃を上回ることも珍しくありません。つまり東京は世界でも極めてまれな、夏は24時間ぶっ通しで暑い街なんです。競技のスタート時間を1、2時間早めたところで、さほどの意味はないと思いますね。
それでも早朝は日中より若干気温は低いでしょうが、実は気温と湿度は反比例の関係にあり、かえって湿気は日中より増すんですよ。だからスタート時間の繰り上げは、逆効果にさえなりかねないのです」(森氏)
日本スポーツ協会(旧・日本体育協会)公認スポーツドクターで、16年まで日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)を務めた内科医の栗原隆氏も警鐘を鳴らす。
「もし2年後の東京が今夏と同じ暑さになったとしたら、日本スポーツ協会が出している指針では、『運動は原則中止』というレベルなんですよ。そんななか、世界最高水準の強度で競技を行なおうというんですから、医師の立場からすれば、正気の沙汰とは思えません。特に日本の夏は蒸し暑さが問題です。気温が高くても乾燥していたり、風が吹いていたりすると汗が蒸発して体を冷やしてくれますが、湿度が高いと汗がじっとり体に張りついたままで放熱されないので、熱中症になる可能性が高くなるんです」
特に警戒が必要な競技は、マラソン、テニス、トライアスロンあたりだという。
マラソンはそもそも鍛え抜かれたトップ選手でも健康リスクの大きい競技。ましてや酷暑のなかを走るのは相当危険です。熱中症までいかなくても、脱水症状で選手が倒れることはよくありますからね。給水ポイントでボトルを取り損ね、水分や電解質をうまく補給できなかった場合はかなり危険です。テニスは競技時間が長い上、コートからの照り返しもきついので相当な発汗量になる」(栗原氏)
でも、トライアスロンは、ランやバイクの距離がそう長くない上に途中で水分補給ができ、スイムは海中で体を冷やせるから、さほどの心配はないのでは?
「いえ、そのスイムが盲点なのです。激しい運動をしているので、選手は海中でもけっこう汗をかいているのですが、その割にはあまり喉が渇かないし、途中での水分補給もできない。しかも頭部には強い日差しが当たっているので、体温調節機能が狂いがちなのです」(栗原氏)
医学的見地からも、東京五輪はとても安心して見ていられる大会ではないようだ。
◆『週刊プレイボーイ』33号(7月30日発売)「今夏並みの『危険な暑さ』になったらどうなる!? "灼熱"東京五輪、一番ヤバい競技・種目はこれだ!!」より