学校や教師の都合を優先しなければ、子供は死なずに済んだかもしれないと思うとやりきれません

愛知県豊田市で小学1年の男児が校外学習から戻った後に教室で意識を失い、病院で死亡した事故を受け、同市の太田稔彦市長は今月18日に開かれた記者会見で学校の判断の誤りを認め、陳謝した。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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暑さ寒さも苦しさも我慢、自分の意志よりも規則を優先すること。忍耐教育は子供を強くするためじゃなくて、人を管理しやすくするためのもの。よけいなことを考えずに組織の方針に素直に従う子に育てれば、親も先生も将来の上司も、ひいてはお国も助かるというわけです。そういう教育を受けてきた教師たちが子供の命を預かっているのが、今の学校です。

愛知県豊田市で校外学習に出かけた小学1年生の男児が熱中症で亡くなりました。男児は行く前から体調不良を訴えていたのに、教師は炎天下の校外学習に連れ出し、学校に戻ってからも保健室に連れていかずに気温30℃を超える教室にとどまりました。意識を失った男児は病院に搬送された後に死亡。重度の熱中症である熱射病でした。

なぜ連日の猛暑が報じられ、再三熱中症に注意が呼びかけられているのに、学校は校外学習を中止しなかったのか。若い教師たちに熱中症の正しい知識はあったのか。子供の体調異変に気づいても、学校の方針に従わねばという義務感に縛られていたのではないか。円滑な校外学習の実施を優先して、目の前の子供の異変を過小評価したのではないか。

正常性バイアスといって、人はいつもと違う異常事態が起きても「大したことないだろう」と考えるのだそうです。今回の件でも、教師という立場を離れた個人の感覚では、もしかしたら「本当に大丈夫だろうか?」という懸念はあったのかもしれません。でも学校の恒例行事だし、予定どおりに授業をこなさなきゃ、という思いがそれを打ち消したのだとしたら。学校や教師の都合を優先しなければ、子供は死なずに済んだかもしれないと思うとやりきれません。

忍耐教育という名の下に、何十年も思考停止訓練を続けてきた結果、組織運営に過剰適応した人材が量産され、滅私奉公が礼賛される日本。言われたことを黙って遂行すべしと刷り込まれた人々は、責任感も希薄。冷暖房もない教室に座って意味不明の校則に従うよう飼いならされた私たちの体には、それが深く深く刷り込まれているのです。

でももういいかげんやめませんか。子供たちに必要なのは、大人のむちゃぶりに耐える力なんかじゃない。自分で考えて生きていく力です。暑さに耐える根性じゃなくて、気温に合わせて適切な体調管理ができるようにするための知識と習慣が子供の命を守るのです。教室にはエアコンをつけ、高温時の運動は避け、安全な環境を整えるのが大人の責務。先生たちだって、本当はわかっているはずです。猛暑のなかの部活や体育祭だって、おかしいよね?

いったいこれまでにどれほどの子供が根性論と杓子(しゃくし)定規の学校運営の犠牲になったことか。同じことは職場でも起きていますよね。思考停止教育は、人の命を奪うのです。

●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など