このままでは同じような事件が再び起こる? 鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が警鐘を鳴らす!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

7月6日に執行された、麻原彰晃を含むオウム真理教元幹部7人の死刑。しかし、一連の事件の真相は明かされることなくうやむやのままに......。今後、狂気のカルト教団の発生を防ぐには、宗教教育のあり方から見直すべき、と神学に精通する佐藤優氏は警鐘を鳴らす!

■拘置所内の格と処遇

鈴木 本日の大地塾は「オウム関係者の死刑執行」について、佐藤さんからお話をいただきたいと思います。

佐藤 7月6日、「地下鉄サリン事件(1995年3月)」ほか、計13件の事件で殺人罪などに問われたオウム真理教元代表、麻原彰晃(本名 松本智津夫、63歳)を含む、7人の教団元幹部の死刑執行が発表されました。

今年3月の時点で、すでに7人は各地方の拘置所に移送されていたのだけど、あえてこの時期の死刑執行を法務省が選んだのは、政治的にも比較的安定した時期であったからでしょう。

オウム関係者といえば、私たちもかつて彼らと同じ東京拘置所に収監されていたことがあるから、格や処遇の違いなどについてはよく知っています。もちろん、麻原彰晃と私とでは格が全然違った。

麻原彰晃クラスにもなると、敷地内を動くときにはほかの収容者がその移動区間にいないようになっていて、刑務官たちがトランシーバーで「B5通過」「A4通過」と区間で連絡し合いながら移動させる。

鈴木先生はどちらかというと、麻原に近い処遇を受けていました。私と鈴木先生は拘置所内で一度もすれ違ったことがないんです。先生はほかの収容者とすれ違ったことはありましたか?

鈴木 なかったですね。やっぱり人目にさらさないようにするんでしょうね。

佐藤 それから、鈴木先生が公判に行くときは専用車がついていましたよね。それが出るのは麻原彰晃と鈴木先生だけだったと聞いています。

普通だったら、囚人6人くらいが手錠と腰ひもで数珠つなぎになってバスに乗せられる。

そうするとわかるんだけど、車内にいる3分の1くらいの人は、Tシャツの袖から立派な入れ墨の紋々をのぞかせていたりするんだよね(笑)。

あと、鈴木先生は確か取調室も違いましたよね?

鈴木 そうですね。取調室は3段階くらいに分かれていて、部屋の大きさや冷暖房のありなし、それにテーブルや椅子も違うんですね。普通の人はパイプ椅子ですが、格が上だと肘かけ椅子になります。

ちなみに、私を取り調べた谷川特捜副部長(当時)はこう言いました。

「鈴木先生は田中(角栄)総理並みの扱いをさせていただいております」と。

私は、「よけいなお世話だ」と言いましたよ(笑)。

■危惧すべき日本の宗教的安全保障

佐藤 オウム真理教の前身であった「オウム神仙の会」は、1984年2月に設立されました。当時の信者数は十数名ほど。その後、チベット仏教の教義を用いることで、その神秘性が信者の心をとらえていった。

麻原は、信者たちから「尊師」と呼ばれて神格化され、教団信者にホーリーネーム(教団内での名)を与えて教団内にピラミッド型の階級社会を作り上げていきました。

そして、1987年7月頃に「オウム真理教」に改称した後、「救済のためならば殺人は許される」という教義(=ポア)を唱えるようになります。この頃から、「オウム=狂気のカルト」というレッテルが貼られるようになった。

しかし、こうしたレッテルを貼るだけでは、一連の事件・問題の本質は見えてこない。実は、「救済のための殺人」という論理はオウムに限らず、イスラム教の世界や、プロテスタントの世界にもあることなんです。

例えば、16世紀ドイツの宗教改革者だったマルティン・ルターは、「時の権力に反抗して立ち上がった農民は次々に殺せ」と言った。

権力に対する反抗は罪であるから、農民があまり罪に深入りしないうちに殺してしまいなさい、と。そうすれば魂の清さが保たれ、復活して救済される可能性がある、と言って殺人を正当化したんです。

それに、過去の宗教戦争の歴史を振り返るとわかるけど、キリスト教の信者も、信仰のために死ぬのを怖がることがなかった。キリスト教も近代の合理主義を基準にすると、常軌を逸した信念を持っているといえますからね。

自分の命を捨てることを決意した人というのは、その代わりに他人の命を奪うことに対する抵抗感が薄れるんです。

一方で、仏教は寛容だといわれているけれど、近年イスラム教徒のロヒンギャ族を殺害しているのは、大多数の仏教徒からなるミャンマー軍だよね。スリランカで襲撃事件を起こしたのも仏教徒だった。

ようするに、「狂気」というのは、世界宗教や既存宗教であっても、ある種の条件の中では出てくるということなんです。

そういった宗教の危険性を伝えて、防止する手段を考えるのも宗教の専門家の責任なんだけど、日本の宗教専門家は取り組もうとしない。

さらに怖いのは、日本の若者の多くは宗教について学校で学ぶ機会が少ないことです。

日本の中高生は、受験競争やスクールカーストによってストレスを抱え込んでいる子が多い。そして、大学では教養や専門知識を教わることはできても、心の空白を満たす環境はなかなか得られないわけです。

そういった心の隙間に、危険な宗教がつけ込んでくる可能性は十分にある。だから、日本はもう少し警戒感を持たないといけない。

ロシアは、ソ連崩壊前後の混乱期に、オウム真理教を含むさまざまな危険な宗教が若者に影響を与えた教訓から、今は中高生・大学生に宗教の特徴やカルトの危険性を教えて、宗教的安全保障、精神的安全保障の意識を植えつけています。だから、今のロシア人には危険な宗教に対する耐性がついている。

日本の場合は、信仰や思想などの内心に踏み込まない形でテロ対策をしようとしているんだけど、これではどうしても限界がある。日本も、ロシアのような宗教的・精神的安全保障をやっておかないと、今後、第2、第3のオウム真理教は出てきます。

■加害者でもあり被害者でもある

佐藤 では、カルトが持つ怖さとは何か。

それは「信者が加害者でもありながら、同時に被害者でもある」ということなんです。これはカルトに限らず、ねずみ講やマルチ商法などにも共通する怖さです。

今回死刑になったオウム真理教の元幹部たちも、人を殺した意味では加害者であったけど、学業を放棄してカルトに取り込まれてしまったという点では被害者でもあった。

だから、彼らを死刑にしてしまえばそれで済む、という観点だけで終わらせようとすると、オウム真理教の問題はいったいなんだったのかというのがますます見えなくなってしまうんです。

オウム真理教は、刑事責任の究明は裁判でなされたけれど、あの人たちがどのような意識を持って、どのようなことをしようとしていたのか、これについては全然究明がなされないまま終わってしまった。

私は決して、人道的な観点から死刑をやめろと言っているのではなくて、この事件からの教訓を最大限引き出さないといけなかったのに、それをやることなく死刑に処してしまったから、この終わらせ方で本当によかったのかと疑問に思うんです。

それから、刑事事件といえばわれわれもかつて裁判で有罪になっていますけど、鈴木先生、われわれの裁判で取られた調書に本当のことは書いてありましたか?

鈴木 あれは事実じゃないですね。

佐藤 そうですよね。裁判所と検察というのは、自分たちのストーリーに固執するところがある。そうするとオウムの裁判でも、真相が裁判で究明できたのかどうかは怪しい、ということにもなってくる。

ここで参考にすべきなのは、昔の航空機事故が発生したときの事故調査書だよね。これは、真相究明と責任追及を分けて行なっているんです。

「なぜ航空機事故が発生したか」という聞き取りはやるんだけど、そこで刑事責任は追及されない。それだから、皆真実を話すわけです。

オウム裁判では、そのような枠組みで真相を明らかにする必要があったと思うのだけど、それが全然できていなかった。これが大きな問題だったと私は思います。

鈴木 佐藤さん、ありがとうございました。質問のある方はどうぞ。

――そうすると、真相究明と刑事責任を審理する2種類の裁判所が必要になるということですか?

佐藤 片方は裁判じゃなくていいので、国会主導で真相究明に向けた委員会をつくればいいと思います。

国会が、犯罪学や心理学、精神病理学、宗教学などの専門家を指名して、第三者委員会をつくって国会に報告する形でもいいと思いますよ。

●鈴木宗男(すずき・むねお)
1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。昨年公民権が7年ぶりに回復し、衆院選に出馬。衆議院議員の鈴木貴子氏は長女

●佐藤優(さとう・まさる)
1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として精力的に活動中

■東京大地塾とは?
毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室で行なわれる新党大地主催による国政・国際情勢などに関する分析・講演会。参加費無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人前後の聴衆が集まる大盛況ぶりを見せる。次回は、8月23日(木)16時~。詳しくは新党大地の公式ホームページへ