実家の親に会うたび「年を取ったなあ」と思う人も多いのでは? そこで、里帰りの前に知っておきたい「75歳以上」と寛大な気持ちで付き合う方法。
日本全体がもうすぐ「お年寄りだらけの国」になってしまうのだから、楽しくやりましょうよ、という提案です。
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高齢化が加速する日本社会。7年後の2025年には団塊世代が75歳を迎え、国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上という、世界にも類を見ない超高齢化社会がやって来る。
そのとき団塊ジュニアから下の世代はこれまで以上に、仕事でも、家庭でも「75歳以上」と接することになる。例えば公共の場でキレる高齢者に困惑し、家では親のヘンな言動に戸惑い......。
かといって、憤ったり嘆いたりばかりしていても、世の中ますます世知辛くなるだけ! 急増する「75歳以上」と、どうすればおおらかな気持ちで付き合っていけるのか今から考えておくべきだ。
そこで、認知症の専門外来と在宅医療を行なうクリニックを開業して19年、月に1000人の患者さんを診察する長谷川嘉哉先生に、「なぜ?」と疑問符が浮かんじゃう高齢者の言動の原因と、付き合い方を学びたい。
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■ケース1「突然キレる」
息子が、実家の70代の両親に「お父さんのために、家をバリアフリー化しよう」と話したところ、静かに聞いていた父が突如「うるせえ、俺はまだ年寄りじゃねえ」と激怒し始めた。以来、親子関係は冷え込んだまま......。
【解説】
理屈で説得する息子さんに対し、お父さんは感情がコントロールできず怒鳴ってしまったというケースだが......。
「前頭葉機能の低下は『性格の先鋭化』を引き起こします。もともと怒りっぽかった人は、よりキレやすくなります」
この息子さんは、心配しつつも「うちの親父はまだ大丈夫」と思っていたそうだが......。
「理性的なはずの父から意味もわからず怒鳴られたことで、『俺は親父のことを考えてやっているのに!』とカチンときてしまう。このように、親の加齢による性格の変化を想定しないまま、感情的な衝突が起き、親子間や夫婦間の関係が断絶......。診療現場でも、こういう事例が本当に増えています。対処法は、親の怒りをいったん受け流し、冷静になってから、もう一度話し合うことです」
■ケース2「同じ昔話」
「前にも聞いたよ」と言っても、若き日の武勇伝的エピソードを何度も何度も繰り返す。
【解説】
「これは『承認欲求の表れ』なんです。可能なら、毎回きちんと聞いてあげるのがよい。実際、認知症の治療として『回想法』という手法があり、毎回1時間ほど患者さんに幼少時からの話を聞きます。思い返して話すことで、認知機能の向上が期待できるんですよ。脳の健康にとって、アウトプットは非常に大事な行為なんです」
その話、もう聞いたと言わずに、踏ん張るのが大事なのだ。
「とはいえ、家族だけでは負担もある。各自治体には話を聞く訓練を積んだ『傾聴ボランティア』がいますから、相談してみるのもいいでしょう」
■ケース3「電話」
父と電話で話していたら、突然「あんた誰だったっけ?」と言いだし、ボケたのか!?と慌てて会いに行くと普段どおり。心配させて注意を引いているのか?
【解説】
「相手の顔を見ないまま話す電話での会話は、MCI(軽度認知障害)の症状が出始めた脳にとっては複雑なやりとりなんです。一瞬、ぼうっとした瞬間に『あれ? 誰と話しているんだっけ?』となり、前後がわからなくなることは少なくない」
■ケース4「待てない」
旅行帰りの母から「おみやげを買ってきたから今すぐ取りに来て」と電話。仕事があるので「今日は無理」と答えると、「冷たい」と不機嫌に。
【解説】
子供からすれば「こっちの都合を考えてよ」だが......。
「年齢を重ねると徐々に相手の立場に立って物事を考える能力が落ちていきます。老化のひとつと受け止め、まずは『ありがとう』と感謝した上で、行ける日時を伝えるなど、カッとさせない対応をしてください」
■ケース5「家が荒れ放題」
半年ぶりに帰省したら、いつもきれいに片づいていた実家が荒れ放題。だが、母は気にしていない様子で......。
■ケース6「財布パンパン」
ふと父のお財布を見たら、小銭でパンパン。「みっともないよ」と軽く言ったら、ばつが悪そうに黙り込んでしまった。
■ケース7「味覚がおかしい」
遊びに来た夫の両親に手料理を出したら、醤油やラー油をどばどばかけ始めた。口に合わなかったのか、いやみなのか。
【解説】
「これらの3つのケースも、前頭葉機能の低下を示しています。部屋の掃除ができないのは理性的な思考力が落ちていることの表れ。
財布がパンパンなのは、レジで瞬時にお釣りを計算して支払うことができなくなっているから。常に紙幣を出すので小銭が増えていくんです」
過剰な味つけは?
「加齢変化で味覚が鈍くなると濃い味を好むようになります。実家に帰ったときご両親の作る料理が急にまずくなっていたら、老化のサイン。だから、離れて暮らしていても、親の手料理は定期的に食べたほうがいいです」
■ケース8「被害妄想」
「隣の家がうるさい」「向かいの家の住人からいやがらせを受けた」など、ひとり暮らしの親がご近所トラブルを訴えてくる。そんなはずはないんだが......。
【解説】
「実際にいやがらせなどはなく、被害妄想的に訴えてくるとすると、これはすでに認知症の症状が出ていると考えられます。
また、時折ニュースになるゴミ屋敷や騒音おばさん的な高齢者のご近所トラブルは、ピック型と呼ばれる認知症である可能性も。すぐに専門医の診察を受けることをオススメします」
★ニュースでよく聞くトラブルの「なぜ?」 この続きは、明日配信予定(14日)です。
●長谷川嘉哉
1966年生まれ、愛知県出身。毎月1000人の認知症患者を診察する、日本有数の神経内科、認知症の専門医。祖父が認知症であった経験から、2000年に認知症専門外来および在宅医療のためのクリニックを岐阜県土岐市に開業した
■「一生使える脳」(PHP新書)
長谷川嘉哉・著。「アレなんだっけ?」が増えてくる40代、50代は、疲れが抜けにくくなるなどの体の変化も感じる年代だ。「人生100年時代」に向けて、幸せな長生きのために不可欠な一生使える脳の育み方を紹介する。現在、ベストセラー中