7月6日に麻原を含むオウム幹部7人の死刑執行に踏みきった法務省。世間の反発がなかったことから、わずか20日後に残る6人の執行も行なったとみられる

7月6日と26日の2度にわたりオウム死刑囚13人に死刑が執行された。

元号が変わる来年を前に行なわれた"駆け込み執行"の背景には何があるのか? また、平成を象徴するほかの死刑囚の執行はこの先も行なわれるのか?

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1995(平成7)年3月20日に発生した地下鉄サリン事件など、オウム真理教による一連の事件で死刑が確定していた13人のうち、教団元代表の麻原彰晃、本名・松本智津夫はじめ7人の死刑執行が今年7月6日に、そのわずか20日後に残る6人の執行が行なわれた。

1ヵ月に2度の大量執行、それに多くても1日ふたり、国会会期中は行なわれないといった慣例を覆す事態に、各メディアは異例ずくめの死刑執行と報じた。なかでも異様なのが、メディアが伝える政府関係者または法務省幹部の次のような発言だ。

「平成の事件は次の時代に持ち越さない方がいい」(時事通信、7月6日付)

「平成を象徴する事件は平成が終わる前に決着をつけるべきだ」(日経新聞、7月15日付)

つまり元号が変わる来年4月を前に、なんとしてもオウム死刑囚の執行をしたいという意向が政府にあったのだ。しかし、人の命を奪う極刑の執行期限を死刑制度とはなんら関係のない「改元」に当てはめることに、違和感を覚えた人もいるのではないか。

それに、この「平成の事件は平成のうちに」の論理にのっとれば、ほかの平成を象徴する事件の死刑囚にも、死刑執行の可能性はあるのか?

オウム真理教による事件や裁判を長く取材してきた、ジャーナリストの江川紹子氏はこの質問に首をかしげる。

「これだけ大量の執行を行なってなお続ければ、国内外からかなりの批判があるはず。それはないのでは?

『平成のうちに』発言についても、法務省から情報が開示されれば誰が何を意味して言ったことなのか理解できますが、現状では推測しかできません。おそらく、秋には自民党総裁選に向けた動きが活発になり、法務大臣も代わるかもしれない。来年は皇室の行事も控えている。刑務官の夏休みもある。それで、この7月という結論に至ったのだと思いますが、これも推測にすぎません。

法務省はこれまでも、死刑執行に関わる情報を出したことはほとんどありません。『なぜこの日程でこの順番なのか』『どうして教祖とほかの幹部が同じ日に執行されるのか』といった理由は一切明かされないんです」

確かに、執行後に開いた上川陽子法務大臣の会見ではいくつも質問が飛んだが、答えは「個々の死刑執行の内部手続きに関わることなのでお答えは差し控えさせていただきます」の一点張りだった。

江川氏は、今回の大量執行の問題点を次のように指摘する。

「麻原とほかの幹部たちの同日執行については遺憾です。かねて言ってきましたが、教祖と共に高弟たちが転生するという話がでっち上げられ、それを教団の後継団体が利用することも考えられるからです。それに弟子たちは死刑執行ではなく、同種の犯罪やテロ対策のための研究対象として活用すべきでした。

ただし麻原は、多くの人命を奪った事件の首謀者であり、その上、自分を信じてついてきた人々を殺人者にしてしまった人物です。まじめで前途ある若者たちの人間性を根本から変えてしまった。二重に罪深く、その罪に値する罰として死刑以外は思い当たりません」

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「平成を象徴する事件は平成のうちに決着を」発言が意味するもの......法務省の改元前死刑執行は続くのか?」より