法改正に伴う大規模なシステム改修が目白押しの来年、「官製デスマーチ」が現場のSEたちを苦しめる
「デスマーチ(死の行進)」とは、「納期が絶対」なシステムエンジニア(SE)たちの過酷な労働状態を指す言葉だ。そうでなくてもキツい彼らの現場を、来年、国が肝煎りで導入する数々の制度変更による「官製デスマーチ」が、さらに過酷なものにしようとしている。

立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授がこう話す。

「まず、5月1日に確実にやって来るのが新天皇の即位に伴う元号の変更。次に、10月1日には、消費税10%への増税と軽減税率の導入が予定され、さらに、2020年の東京オリンピックの暑さ対策として検討されている『サマータイム』の導入が重なるかもしれません。いずれも大規模なシステム改修を伴う案件で、現場のSEにとって多大な負担になる」

ITコンサル会社「チェックフィールド」代表の目代(もくだい)純平氏も不安を隠さない。

「改元と増税とサマータイム、3つ重なればデスマーチは必至。本当に死人が出かねない......」

ところで、このデスマーチとはいかに過酷なモノなのか。元大手システム会社の社員で、現在は上級ウェブ解析士の後藤晃(こう)氏は、最近の事例を話す。

「17年7月に予定より1年4ヵ月遅れて開発が完了した、みずほ銀行の勘定系システムを刷新する大プロジェクトは大変でした。約4年を要したこの"みずほ案件"は投資額4000億円、『SE界のサグラダ・ファミリア』とも揶揄された世界最大のプロジェクトともいわれ、ピーク時には約8000人ものIT技術者が開発要員に駆り出されたんです。この新システムは今年4月に稼働していますが、口座情報を移し替えるアフターフォローなどの作業に最近まで携わっていたSEはかなり多いです」

その現場に詰めていたSEのA氏は、こう打ち明ける。

「徹夜や休日出勤は日常のことで、毎月のようにチームの中で数人がうつ病やノイローゼでプロジェクトから抜け、なかには奇声を発して作業部屋を出ていったと思ったら、それっきり出勤してこなかった人もいました。私も月400時間を超える労働を強いられ、不整脈で一日中激しい動悸(どうき)が続き、朝目覚めても地面がグルグルと回っていて立ち上がれない状態になり、プロジェクトから離脱せざるをえませんでした。関わったSEのほとんどが疲れきっていましたね」

そして今、SEたちは「改元」への対応に追われている。みずほ銀行の案件で地獄を味わった前出のA氏も、疲れが抜けきれないまま次の仕事に駆り出された。官公庁や地方自治体の改元対応だ。

これらの役所では元号を日常的に使うため、来年5月の改元に向けた大がかりなシステム改修が急務となっている。

「今、新元号の発表後に設定を変えれば、すべての書類やデータに新元号が表記されるシステムの準備を進めていす。まあ、みずほ案件よりかは格段にラクですね。ただ、この仕事は新元号の発表直後に"本番"を迎えるのですが......」(A氏)

どういうことか。A氏が続ける。

「改元対応で最も重労働になるのは、新元号がきちんと反映されているかどうかチェックするためのテスト作業。住民票から税務関係の書類、時間外労働の申請書類に至るまで、関連するすべてのデータと書類を出力し、目視で確認しなければなりません」

ここで心配されるのが新元号発表のタイミングです。現時点では1ヵ月前の発表が想定されていますが、テスト作業の工数を考えればギリギリ。もし、1週間ずれれば残り3週間は休みナシの激務が確定です。来年のGWは休めません」

厄介なことに、ここにきて、新元号の発表は「改元は皇位の継承がなされた後」と想定する「元号法」にのっとるべく、、5月1日の新天皇即位後に新元号を公表すべし!との声が保守系議員を中心に高まっている。

「それを聞いたとき、議員の方々はSEを殺す気か、と思いました」(A氏)

『週刊プレイボーイ』37号(8月27日発売)「改元に消費増税に軽減税率にサマータイムまで導入でテレビ、交通インフラはパニック続出か......日本中のSEさん達がボロボロになって列島沈没!!」より