「女性の都心集中は日本全体に関わる問題。地方の男性には、『東京に来ないと出会いはないぞ!』と言うべきかもしれないね(笑)」と語る三浦展氏 「女性の都心集中は日本全体に関わる問題。地方の男性には、『東京に来ないと出会いはないぞ!』と言うべきかもしれないね(笑)」と語る三浦展氏

東京23区内の格差や、都心への人口集中が話題となっている。だが、実際にどこの区でどのような人口推移が起こっているかは、あまり知られていないだろう。

『都心集中の真実──東京23区町丁別人口から見える問題』の著者であり、長年にわたって都市の研究を続けてきた三浦展(あつし)氏は、23区の人口分析を町丁別にすることで、外国人の急増や、各区の意外な所得格差、出生率の推移を明らかにした。今回はそのなかから、都心集中が日本全国にもたらす問題について語っていただいた。

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──都市一極化集中に関する本は多くありますが、本書は23区を町丁別にまで大変細かく分析されている点がとても新鮮です。

三浦 確かにそのような書籍は近年多く出ていますが、僕から見ると知っていることがほとんどでした。そこで、ここ近年でダウンロードできるようになった国勢調査の町丁別のデータを用いて、僕なりにさらに細かく調べてみようと思ったんです。

それによって、仮説だったことが検証できるようになりました。例えば、足立区全体で見ると港区との所得格差が約3倍あるといわれていますが、実は、北千住(足立区)は人口が伸びているし、南千住(荒川区)も、地価上昇率がナンバーワンだったりする。地域の変化は局所的ですし、職業や産業、結婚などの傾向も見ないとトレンドはわからないので、国勢調査の町丁別集計は有効なんです。

──特にそのなかでも、近年の女性の社会進出によって全国の女性が都心に集中するようになっている傾向は、日本全国を巻き込んだ現象といえます。都市とジェンダーの関係を20年以上論じてきた三浦さんに、この状況はどう映っているのでしょう。

三浦 「女のコのほうが男のコよりも元気がいい」みたいな話は、ここ20年以上ずっといわれてきたことだけれど、それが都心部における人口の推移にまで影響しているというのに気づいたのは、僕も最近になってからです。

今回調べていて、女性が住む地域の分析はとても興味深かったですね。例えば、「専門職や管理職の女性は皇居を取り囲むように武家屋敷が多かった地域に住む」とか「未婚女性はスタバのある町に住むことが多い」「独身女性は東横線沿いが好き」とかね(笑)。こういった分布は新しい発見でした。

──しかし、その分、日本の未婚化はますます進んでいると。

三浦 そうですね。未婚女性は所得も高いから、住む場所も都心の良い所になってきます。その一方で、低所得の未婚男性は、自然と金のない町に住むようになる。どうやっても、ふたりは出会わないわけです(笑)。

──なんだか悲しいですね......。

三浦 いや、マズいですよ。これは都心だけでなく、日本全体の問題ですからね。未婚の女性が多いのは都心だけであって、田舎に行くと必ず男性のほうが多い。

地方の男性には「おまえらも東京に来い! 田舎にいる限り出会いはないぞ!」と言うべきかもしれないね(笑)。その後、結婚して子供ができたらまた戻ればいいわけですから。

──女性が地方から離れていく根本的な原因はなんでしょう。

三浦 私は郊外の研究をずっとしてきましたが、まず「女性も働ける社会」と言いながら郊外に住んで「長距離通勤しなさい」というのが矛盾していると思うんです。

いずれは子育てもしたいと望んでも、通勤に1時間もかかる場所に保育園があるのでは全然支援になっていないわけで、それなら都心の近くに住みたがるのは当たり前です。

これからの人口減少時代のなかで、人口を減らさない、特に若い人に住み続けてもらいながらほかからも来てもらうためには、働く女性(特に子育てをしたい)が住みやすくないとダメです。となると、駅からバスに乗るよりは駅前にマンションがあったほうがいいし、当然都心に近いほうがいい。

極論かもしれませんが、郊外ニュータウンの駅前にタワーマンションを20棟建てろという私の主張は、それくらいの対策をどんどん講じていかないと郊外の衰退は避けられないということなんです。

──確かに、タワーマンション中心の都市は増えています。

三浦 駅前に空き家の団地がたくさんある郊外ニュータウンはタワーマンションに建て替えてもいいと思いますね。タワーマンションの場合、所得の高い人が住むので自治体にとっては税収増にもなりますし、出生数の増加も期待できる。

ただしタワーマンション型の再開発では、軽視されがちな個性的な個人店を増やすまちづくりをすべきです。タワマンとハサミは使いようともいえます(笑)。

──また、地方には女性にとって魅力的な仕事が少ないのも問題と書かれていますね。

三浦 そうです。以前、和歌山県から来たという都内で働く、水商売の女性を取材したのですが、彼女の実家の周りは林業と農協などしかなく、兄はニートだと言っていました。若い女性にとって魅力的な仕事がないから、東京に行ってしまえと。男性は職にこだわりがなければ選択肢はあると思いますが、女性は嫁に行けと言われるだけ。

私の知人で、地方から都心に来て働いている30代の女性も「親に結婚しろと言われても、田舎に帰ってもピンとくる男性がいない」と困っています。両親は、地元で結婚して役所などで働けばいいと言うそうですが、一度都心で働いている人にとって、それは魅力がない。

女性が地方でも郊外でも、専業主婦ではない、何か面白い仕事や商売ができることを当たり前にする施策が必要なんです。

──具体的にどうすれば郊外の都市が再び活性化すると考えますか。

三浦 例えば、郊外の団地は空き家がいくらでもありますから、そこでお店を開けるようにすればいいと思います。でも、都市再生機構はそういうことをやろうとしない。

──でも、団地のリノベーションは最近増えてきていませんか?

三浦 あれもまだまだ実験みたいなものですよ。もっとどんどんやってくれっていう感じ。空き家はいっぱいあるのに、店や事務所に転換できない。屋台も出しちゃいけないし、全部がんじがらめなんですよね。まるで共産主義の独裁都市みたいに(笑)。法律は変えていけばいいのに、変える気がない。

今は複業許可の時代ですから、男女関係なく、平日はオフィスワーカーをやって土日はパン屋さんやアクセサリー屋さんを経営してもいいと思うんです。それを許可するだけで全然違ってくると思いますね。

●三浦展(みうら・あつし)
1958年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、パルコに入社。その後、マーケティング誌『アクロス』編集長を務め、三菱総合研究所を経てカルチャースタディーズ研究所を設立。消費、都市、郊外を研究する。主著に『あなたの住まいの見つけ方』(ちくまプリマー新書)、『下流社会』『東京郊外の生存競争が始まった! 』(ともに光文社新書)、『第四の消費』(朝日新書)、『ファスト風土化する日本』(新書y)、『東京田園モダン』(洋泉社)、『昭和「娯楽の殿堂」の時代』(柏書房)などがある

■『都心集中の真実──東京23区町丁別人口から見える問題』
(筑摩書房 740円+税)
都心部に集中が続いている日本の人口。いったい、どこで誰が増えているのだろうか。東京23区の外国人、女性、子供、貧困層、富裕層などの分布を町丁別に徹底分析することで、「女性未婚者増加数は港区港南で1300人」「江東区東雲1丁目だけで子供が2400人も増加」といった驚きの数字が明らかに! そして、そこから見える、都心と郊外のあるべき姿とは......。「都市一極化集中」や「地域格差」などといわれる昨今に必読の一冊だ

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