『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、地震による北海道の大停電の原因と再発防止法を論じる。
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9月19日、北海道・苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所1号機(165万kW)が再稼働にこぎ着けた。これでブラックアウト(全域停電)に続く計画停電などの危機はひとまず遠のくことになる。
だが、それでメデタシというわけにはいかない。ブラックアウトの原因究明と防止策を講じるのは必須だ。
停電の原因は2点。ひとつ目は北海道電力が一極集中の電力供給体制を採用していたことだ。
北海道の電力需要はピーク時でも516万kW(2017年12月実績)で、胆振(いぶり)地方で震度7を記録する直前の9月6日午前2時は286万kWだった。
にもかかわらず、北海道のほぼ全世帯にあたる295万戸が停電したのは需要の半分を送電していた苫東厚真が地震で緊急停止してしまったからだ。
電力の需給は一致させておく必要がある。バランスが崩れると、発電設備の損傷などが発生するためだ。ところが、苫東厚真の緊急停止でそのバランスが大きく崩れてしまった。この結果、ほかの発電所もトラブルを避けようと連鎖停止し、ブラックアウトが起きてしまったのだ。
もし、苫東厚真が小規模だったら、全域停電はなかったはずだ。その意味で、ひとつの大規模発電所に多くの電源を頼る「一極集中型」の供給体制を取ってきた北電の責任は小さくない。
原因のふたつ目は脆弱(ぜいじゃく)な送電システムだ。日本の送電技術はヨーロッパに比べると、10年遅れとされる。風力や太陽光など、天候に左右される再生可能エネルギーを導入しても不安定にならない送電網の開発にしのぎを削ってきたヨーロッパに比べ、日本はその努力を怠ってきた。
その怠慢の裏に、原発を維持したい大手電力の意向があったのは言うまでもない。へたに送電システムを進歩させて再エネが拡大すれば、原発不要論が大きくなりかねない。
もし、北電が原発にこだわらずに送電システムを刷新し、再エネなどを中心とする分散的な電力供給体制を整えていれば、苫東厚真のような集中立地は不要だったはずだ。当然、ひとつの発電所がダウンしただけで、北海道中がブラックアウトするという事態も起こらなかった。
再発を防ぐには、電力供給を今の一極集中型から分散型に改め、比較的小規模の発電所を道内にバランスよく配置しなければならない。
その上で、大型発電所の建設に使っていた資金を送電システムの刷新に投じ、再エネを送電網に優先接続させればいい。特に、北海道は風力や太陽光に加え、バイオマス発電にも力を入れたい。
バイオマスは天候に左右されず、安定的に発電できる。しかも、木材チップを燃やすときに生じる熱を暖房に利用すればエネルギー効率は飛躍的に上がる。森林資源が豊富で、冬の厳しい北海道には最適な電源だ。
20年に予定されている発送電の分離にも改善が必要だ。現状は大手電力の持ち株会社の下に発電会社と送電会社がぶら下がるだけの「エセ改革」で、完全な発送電分離には程遠い。これでは送電会社は、グループの発電所、特に原発を優先させたくなるから、再エネの普及拡大も電源の分散も望めない。
今回の大停電は北海道に大きなダメージを与えたが、これを機に北の大地にまったく新しい電力システムを構築してほしい。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中