IOC(国際オリンピック委員会)副会長のジョン・コーツ氏は、東京オリンピックのボランティア条件が「ブラックだ」と批判されていることについて「やりたくなければ申し込まなければいい」などと話した。
タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。
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東京オリンピックのボランティアは国民をタダ働きさせるブラック計画だという声を聞くんだけど、東京だけでなくロンドンとかリオとかほかの大会でも募集してたし、ボランタリー(自発的)にやるものだから、タダ働きしたくない人は参加しなければいいんじゃ?
大学を休みにしたりするのも、強制動員じゃないんだし、参加したい人にとったら助かるよね。就活のネタにもなりそうだし。働いている人が参加しやすいようにボランティア休暇制度を進めたり、子持ちでも参加できるように託児所を作ったりする方針みたいだから、それが大会後も定着したらけっこういいと思うなあ。
そもそも、ボランティアがタダ働きなのはわりかし当たり前のことだと思うんですが。お金じゃなくて経験を得たい人が無理のない範囲で参加するんだから、他人がどうこう言うことでもないでしょ。
東京五輪では交通費として一日1000円のプリペイドカードが支給されて、会場で着るユニフォームや飲食は無料。それで普段はできない経験ができていろんな人と出会えるなら「喜んで!」って人はいると思うぞ。
まあオリンピックは国がやることだから、ついついそこに日頃の日本社会に対する恨みつらみを重ねてしまうのはわかる。残業代を払わない会社とか、自分だけ甘い汁を吸う経営者とか、たくさんいるもんね。巨大な利権にやりがい搾取されるな!って言いたくなりそう。
でも一方では、山口県で行方不明になった2歳児を発見した尾畠春夫さんを絶賛するじゃないですか。年金暮らしで私生活をボランティアにささげ、座右の銘は「自己責任、自己完結」。他人に助けを求めず、支援先で勧められたお風呂も断るストイックさ。本当に立派な心がけだけど、これも究極のタダ働きよ? なのに「県や警察は尾畠さんに日当を払うべきだ!」という批判にはならない。
むしろその見返りを求めない姿勢に日本中が感動したんですよね。もしも日当が出ていたら「お金をもらっていたなんてがっかりだ!」とか言いだしたと思う。
どっちなんだ、と思うんですよ。感動ストーリーとしてはボランティアには清貧でいてほしいけど、自分がやるならタダはいや、っていうこと?
日当が出るボランティア活動があってもいいし、出ないボランティア活動があってもいいし、要はボランティアが特別なことでなくなればいいと思うんです。生活に余裕がなくてもボランティアができるように日当を出すというのもありな気がするけど、そうすると単なる安い日雇いみたいになりそうだし......悩ましいなあ。
まずは地位も名誉もお金もある組織委員会のお偉いさま方に無給でやっていただくというのが、いいかもしれませんね。
●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『幸せな結婚』(新潮社)、『絶対☆女子』(講談社)など