月旅行なんてまだまだ先かと思っていたら、ZOZO前澤社長が「2023年に行きます!」宣言。
残された時間はあと5年弱だが、本当に可能なのか? 元JAXAの専門家に解説してもらった!
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「2023年に月旅行をする初の民間人は、前澤友作」
9月17日、宇宙開発ベンチャー「スペースX」のCEO(最高経営責任者)イーロン・マスクは、そう発表した。
2023年といえば、あと5年弱だが、宇宙旅行計画は現在、どのくらいまで進んでいるのか。
元JAXA(宇宙航空研究開発機構)職員で、ロケットエンジンの開発、宇宙飛行士候補者選抜などを担当した柳川孝二氏に聞いた。
――ZOZO社長の前澤さんが行く月旅行って、どんなものなんですか?
柳川 今回発表されたスペースXの月旅行計画は、現在開発中のBFR(ビッグ・ファルコン・ロケット)で地球を出発し、月を半周して戻ってくるというもの。月の周回軌道には入らずに、地球と月の長楕円軌道を回って帰ってくるというシンプルな行程です。
エンジンの作動も地球の重力圏を抜けるときと、軌道を長楕円(だえん)に変えるときに噴射して、月の周りで軌道を微調整するだけ。1969年にアポロ11号が月周回をして、月面に着陸したときとほとんど同じ飛行経路で、着陸がない分簡単なミッションです。
――えっ、簡単なんですか?
柳川 はい。軌道的にはそうですね。スペースXは、これまでに「ファルコン9」「ファルコンヘビー」といったロケットを造ってきました。ファルコン9は、すでに実用化されていて、補給船で物資をISS(国際宇宙ステーション)に何回も届け、カプセルを回収した実績もあります。
ファルコンヘビーは、ファルコン9の3倍ほどの打ち上げ能力があり、より多くの物資を運べるロケット。今年2月にイーロン・マスクの赤い電気自動車「テスラ・ロードスター」と宇宙服を着た人形を火星軌道に打ち込んだのがファルコンヘビーです。
そして、2023年の月旅行で使用する予定のBFRは、ファルコンヘビーの10倍くらいの物資を運べる。火星に行くために開発されているロケットなんです。
実は、ファルコンヘビーに有人カプセルを積めば、今でも月周回飛行くらいはできるはずなんですが、イーロン・マスクはBFRで行こうとしている。それは、火星に行くための有人技術開発はまだまだなので、その前にBFRで月に行って力を高めようと考えているのだと思います。
――「とりあえず、月に行っとくか」くらいの感じなんですね。
柳川 そうともとれますね。NASAもポストISS計画として、最初は火星に行こうとしていましたが、現在は「月に行って技術を蓄えてから火星へ」と方針を変えています。
――NASAとスペースXでは、どっちが進んでいるんですか?
柳川 NASAは帰還時に有人カプセルがパラシュートで地上に降りてくる。スペースXのBFRはスペースシャトルみたいに機体が滑空して、最後は垂直になって着陸する。
10年ほど前にスペースXが「補給ロケットが宇宙から戻って来たとき、地上に垂直に着陸する」と発表したら、専門家たちはビックリしていました。しかし、最初は倒れたりする失敗もありましたが、あっという間にその技術を確立させました。
今は上段のカプセルはISSの補給ミッションに行って、下段は地球に戻ってきて垂直に着陸するということを普通にやっています。ロケット回収という意味では、スペースXはNASAよりも一歩先を行っています。
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実は、NASAよりも最先端だったスペースX。『週刊プレイボーイ』43号(10月6日発売)では、NASAやスペースX以外にもロケット開発をしている他企業の情報や、民間人の宇宙旅行の未来についても取材している。