『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、「泊原発問題」に見る反原発運動の失速について語る。

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9月6日に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震に伴い、北海道全域で電力供給が途絶える"ブラックアウト"に陥りました。その後、SNS上を中心に「泊(とまり)原発が動いていれば停電はなかった」「いや、むしろそのほうが危険だった」など、原発に関する論争が勃発しています。

泊原発の再稼働の是非については、これからさまざまなシミュレーションを行なった上で議論されると思います。材料がそろっていない以上、僕も確たることは言えません。

ただ、いわゆる急進的な反原発派の主張に共感する人が少なくなっていることは間違いない。これ以上、北海道の電力需給を綱渡り状態で放置しておけば人の命にかかわる――そうした共通認識が広がっていることも大きいでしょう。

2011年3月の東日本大震災による福島第一原発事故の翌年夏、反原発運動が最高潮に達していた頃、週プレのインタビューで「今の反原発はいずれ自壊する」と予言した際は、主に左派方面から相当なバッシングを受けました。

しかし、現に今や反原発に熱を上げる人はごくわずか。しかもその多くは、SNS上で関連記事をシェアするだけです。あの勢い、あの情熱はどこへ行ってしまったのでしょうか。

はっきり言ってしまえば、あれは日本に現れたポピュリズムでした。政府発表は信用できない、メディア情報はフェイクだ、ほとんどの原子力専門家は東電の息のかかった"御用"だ......といった反エリート、反知性的な言説が爆発的に拡散し、多くの日本人が"草の根"の名の下に加担した。運動に熱を上げた人はもちろん、黙っていた人も間接的に。

その後、趣味的に反体制をたしなんでいる知識人を含む一部の人々は、その熱を安倍政権批判に持ち込み、今なお"コップの中"で盛り上がっています。

特定秘密保護法や安保法制、憲法改正、モリカケ問題......と、安倍首相自身のさまざまな"燃料投下"のおかげで長続きしていますが、おそらく彼らが未来を書き換えてくれることはないでしょう。そのために必要なのは冷静な議論と、現実的な対案ですから。

このポピュリズムの沈静化は、ケーススタディとして非常に貴重です。そのまま日本と比べるわけにはいきませんが、欧米では今、まさに反エリート的なポピュリズムの嵐が吹き荒れているからです。

日本の場合は「放射能」が、欧米の場合は「移民・難民」が社会に動揺を与えましたが、日本で反原発運動が失速したように、アメリカのトランプ大統領や欧州の極右政党の暴れぶりも、数年後に振り返ってみれば"夢の跡"なのかもしれません。

だからこそ僕は、かつて本気で反原発運動による原発の一掃を実現できると信じた人や、あるいは本気でトランプが世界を変えてくれると思っている人の気持ちの中に入っていきたいと今、強く思っています。俯瞰(ふかん)で眺めるのではなく、熱に浮かされる心理を追体験したい。どうしてあんなに信じたのか、信じたかったのか。

そうすることで、ポピュリズムの背景にあるいろいろなものが見えてくると思うんです。日本で次にポピュリズムが息を吹き返すとすれば「反移民」ではないかと僕は思っていますが、そのときへの備えという意味も込めて。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!