騒動のきっかけは経団連・中西会長の爆弾発言。紆余曲折の末、政府に押しつけたのは狙いどおり?

もし「就活の時期」に関するルールがなくなったら、学生はどうなる?

「いつでも採用活動ができるようになれば、後にやるメリットはないので、どこも早期化させる。その結果、多くの学生は長い間就活に振り回され勉強が手につかなくなり、大学が崩壊状態になったという事例が過去にもあります」

そう語るのは、雇用ジャーナリストの海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏だ。

こうした事態を防ぐべく、現在は経団連が就活のルール作りを主導しており、3年生の3月に会社説明会解禁、4年生の6月に選考解禁となっている。しかし今年9月、その経団連の中西宏明会長が「就職活動ルールは個人的には廃止してもいいと思っている」と発言し、大学・企業・学生の間に衝撃が走った。

そして10月9日、経団連は「2021年春入社の学生(現大学2年生)から、就職・採用活動ルールは作らない」と正式に宣言したのだ。

暴挙とも思える経団連の動きの背後には何があるのか?

「経団連は本当にルールを廃止したかったのではなく、"旗振り役"をやめる機会をうかがっていたのです。2014年までは、大学4年生の4月に面接を解禁していました。これは、学業阻害の最大の要因となる企業の説明会が学生の春休みの時期に行なわれる最良のスケジュールでした。

ところが、現場を知らない関係団体、さらには政府が的外れな文句を言い、結局経団連が押し切られる形で採用時期が後ろ倒しになってしまったのです。それなのに後に、案の定問題が噴出した際、マスコミはルールの変更を主張した側ではなく、運用者である経団連を批判した。その不満が経団連にはずっとあったのです」(海老原氏)

こうして、やってられるか!とさじを投げた経団連に代わり、ルール作りを事実上引き継いだ政府は、現在、大学1年生に当たる2022年卒業以降の学生についても、従来の日程を維持する方針を表明。騒動は収まったように見える。しかし、大学ジャーナリストの石渡嶺司(いしわたり・れいじ)氏は、政府だって本当は関わりたくないはずだと指摘する。

「違反企業に対して罰則規定を作ろうにも、解禁前の接触を『大学の先輩として後輩に会っていただけ』と言われれば判別は困難です。また、仮にその問題をクリアしたとしても、どこが取り締まりを主導するのか、そのために必要な膨大な人員はどうするのかといった難題が残ります」

これまでは企業団体の自主規制だったものを、政府が主導することはそう簡単ではないようなのだ。

「政府は経団連の意向を引き継ぎ、当初は就活ルール廃止を進めようとしました。しかし、これに大学や、自民党・公明党の有力支持基盤である中小企業が想像以上に強く反発。今、不興を買えば、来年の統一地方選・参院選に影響しかねないため、慌てて現状維持に方針転換したのだと思います。実際のところは、どこかのタイミングで監視役から降りたいというのが本音でしょう」(石渡氏)

こうしたドタバタのしわ寄せを一番受けるのは学生たち。大変なのはわかるけど、どこかが本腰を入れてまとめ役にならなければ、また迷走を繰り返すだけだ。