週刊プレイボーイ48号からライフハック連載がスタートした大人の発達障害者・借金玉氏 週刊プレイボーイ48号からライフハック連載がスタートした大人の発達障害者・借金玉氏

その徹底した実践主義で、「発達障害当事者じゃなくても参考になる」と話題になっている『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)。

著者は、作家で"大人の発達障害者"の借金玉(しゃっきんだま)氏だ。11月12日発売の『週刊プレイボーイ48号』から、家電、家具、ビジネスグッズ、アプリなど、あらゆる役に立つモノを使った生活術、仕事術を大公開する連載コラム『今日はこれに頼りました』をスタートさせる借金玉氏。本人いわく、「日本一意識が低いライフハックコラム」だ。

今回のインタビューは、同氏のデビュー作である『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』刊行後に実施した

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――いきなりですが、「借金玉」という名前の由来は?

借金玉 数年前、僕は会社を経営していたんですが、資金繰りが悪化して、一千万単位の借金を抱えてしまいまして。そのとき、ツイッターのアカウント名を「借金王」しようかなと思ったのですが、「王」は大げさだから「借金玉」でいいかと。まあ半ばヤケクソです。

僕が本を書いたきっかけは、このアカウントが編集者の目に留まったことだったんですが、まさかこの名前で出すことになるとは思わなかった(笑)。ちなみに、借金玉の前は「経営無理太郎」「人生無理太郎」などと名乗っておりました。

――最近、「大人の発達障害」という言葉をよく聞きますね。ただ、障害と言うには「空気が読めない」「忘れ物が多い」といった、外形的に判断できない、それこそ単なる怠惰なだけと誤解されがちな"わかりにくさ"があると思います。

借金玉 そうですね。実を言えば、発達障害者同士ですら「分かり合えなさ」があったりします。発達障害者が発達障害者に向かって「あいつは偽発達障害だ」なんて話は非常によくあります。私もツイッターでよく言われますよ。マジで笑えません。

発達障害は障害として一定の外枠はあっても、その表現の型はひとりひとり大きく違う。そして、発達障害者と定型発達者(発達障害の対義語、いわゆる健常な人)の間も完全に線が引けるわけでもないんですよ。「ある部分は発達障害的だけど、トータルでは定型発達」の人もいますし、難しいところです。

――借金玉さんはどんな発達障害を抱えているんですか?

借金玉 まず、顕著なのは「注意欠如」。例えば、ここに来る途中も名刺を忘れて取りに戻りましたが、僕、名刺入れを5個持っているんですよ。それでもたまに忘れてしまう。こういった「うっかり」が多いのはADHD(注意欠陥・多動性障害)的で、人生を通じて困って来ました。「会社にスニーカーで出勤して、部長との面談中に居眠りする」みたいなやつです。

ほかにも集中がとても難しいというのもあります、逆に一回作業に没頭してしまったら止めることができない「過集中」も。ASD(自閉症スペクトラム)的な「空気の読めなさ」は、加齢とともに改善してきましたが、まだ残っています。あと、二次障害の双極性障害(躁鬱病)も抱えていますね。

こうしてみると僕は「発達障害の役満」みたいですが、まだ社会適応ができているほう。もっと大変な方はたくさんいます。

――この本はそんな発達障害の人が社会で生き抜くための実践的なノウハウが書かれているわけですが、定型の人でもかなり参考になりますね。ただ、そのなかで「散らかった机を片づける前にやること」として、かなり過激な手法を紹介しているのが気になりました。これ、本当にやっているんですか?

借金玉 「机の上にあるモノを、全部ガーッてはたき落とす」ヤツですね。僕は結構な頻度でやっています。もちろん、コップとか割れるモノは先にどかしますが。アレ、資格の勉強とか、プロジェクトの企画書作りとかのダルいタスクを"無理やり始める"のにすごく効くんですよ。

――具体的な効用は?

借金玉 ひとつは作業スペースを確保する実用的な観点から。もうひとつが「儀式」としての側面ですね。入社式とか始業式とか、人は儀式で気持ちを入れ替える。このライフハックはその応用。「机の上のものを叩き落とす」みたいな行動で、気持ちをシャキっと入れ替えるわけです。これで机の上は片付き、仕事に「手をつける」という難題は突破できる。机の下の惨状については後から考えましょう。

――この本には人間関係改善のひとつのノウハウも書かれていますよね。

借金玉 人間関係に悩まされないコツは、"人間関係をやらないこと"だと思います。例えば「会話は『音ゲー』だと思え」と書きました。

――音ゲーって『太鼓の達人』とかの?

借金玉 そうそう。音楽に合わせてタイミングよくボタンを押したり、太鼓を叩いたりするアレです。相手の話や人間性をきちんと理解して応対するというのはすごく難しいですよね。それよりも共感や、褒めるニュアンスの相槌をタイミング良く返すことが大事なんです。

――なんか、適当すぎません?

借金玉 「適当」、素晴らしいじゃないですか。これは発達障害の人にありがちだと思いますが、他人を理解しよう、他人に理解してもらおう、ということに躍起になりすぎない方がいいんです。人間関係って結構「なんとなく」で成り立っている。

僕も過去に「あなたは間違っています」と会社の上司に突きつけた結果、彼にものすごく嫌われたことがあります。僕のそういうクソ真面目なところを評して「誰も幸せにしない誠実さ」と批判した知人がいましたが、本当にブッ刺さりました。

――一所懸命が正解とは限らない。

借金玉 はい。真剣に頑張れば頑張るほど、「なんとなく」から離れてしまう。こういう考え方、実は定型発達の少なくない人もうまくできていないのではないかという気がしています。

――この本は「自己啓発書」を謳っていますが、そのジャンルにおいては、あまり書かれてはいなかったことですね。

借金玉 そうですね。本書のコンセプトのひとつは「アンチ自己啓発書」です。コミュニケーションの達人ではなく、「なんとなくやる」ことが苦手な僕だからこそ提示できるノウハウがあるんじゃないかな、と。

自分を責め過ぎず、他人も責め過ぎず「適当」に。それが幸福な働き方のような気がします。まあ、それでも仕事ってやっぱり大変ですし怖いですし適当にやり切れないところはあるですが、極力頑張って適当にやりたいです。やっていきましょう。

●借金玉(しゃっきんだま) 
1985年生まれ。作家。幼少期から社会適応に苦しみ、登校拒否を繰り返しながら、高校をギリギリ卒業。その後、早稲田大学に入学。持ち前の(?)超集中力を発揮して大手金融機関に潜り込むも、なじめずに2年ももたず退社。一念発起で起業し、社員数2桁のそれなりの会社に育て上げるが、いろいろあって倒産。その後は1年かけて「うつの底」を抜け出し、現在は不動産の営業マンとして働く

■『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA 1400円+税) 
発達障害の著者が試行錯誤を重ねて会得したライフハックを自身の人生を振り返りながら紹介。すぐにモノを紛失する人が使うべき「最強の仕事用バッグ」とは? お酒と睡眠薬を併せて飲む悪癖で、一時は死にかけた経験から学んだ「依存症からの抜け出し方」とは? そのほか人間関係から生活習慣まで、普通の人でも直面する数々の困難を上手に乗り切る方法を、"当たり前ができない"発達障害者という目線から説いた新しい自己啓発書だ

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