選手村の建設工事が進むなか、東京五輪で医師を無償で働かせる『医療ボランティア』の是非が問われている 選手村の建設工事が進むなか、東京五輪で医師を無償で働かせる『医療ボランティア』の是非が問われている
東京五輪の運営が、医療スタッフについて"報酬を支払わないボランティア
"として扱う方針を示したことに批判が集まっている。 では、医療従事者たちはどう考えているのか? 本音を聞いてみると、意外な答えが返ってきた!

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東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委)は、大会中に競技会場などで活動する医師、看護師、理学療法士ら医療スタッフの募集も始めた。

ところが、10月15日に組織委が一部を除いて医療スタッフには「報酬は支払わない」と発表すると、「医療のプロをタダ働きさせるとはどういうつもりだ!?」と反発する声が噴出。組織委の幹部が「お気持ちのある方に来ていただく」とマスコミ向けに発言したことも火に油を注いだ。

この点について、組織委の広報担当者に話を聞くと、「ご指摘のような声があることは承知しておりますが、東京五輪は全世界から選手や観客が訪れる歴史的なイベントであり、またとない自国開催であることから、医療従事者としての技能を生かして『ぜひ大会へ参加したい』というありがたいご意見を多くちょうだいしております」とのこと。

では、実際のところは? 組織委が無償にすると発表した医療従事者の中から歯科医師、理学療法士、薬剤師の方に本音を聞いた。

「私は無償でも参加したいと思っていますよ」
 
そう話すのは国立大学附属病院に勤務する歯科医A氏 (40代)だ。知人の歯科医がリオ五輪の医療ボランティアを務めたとのことで、その内情は詳しく聞いているという。

「五輪開催中、選手村に『ポリクリニック』と呼ばれる総合診療所が開設されます。その診療所内に内科、整形外科、 歯科などの各診療科、調剤薬局が配置され、そこに詰める医療スタッフの大半が無償ボランティアになるようです。 医療スタッフは延べ数千人体制になると聞いています」

そのなかでも歯科が最も多忙になるという。

「途上国や歯科受診に保険が利かない国の代表選手が、ここぞとばかりに虫歯治療に訪れるのだそうです(苦笑)」

では、Aさんがボランティアに参加したい動機とは?

「一生に一度の機会ですし、 他国の歯科医と触れ合えるし、自分が治療した選手がメダルを獲ったら......なんて想像するとワクワクするじゃないですか。それに、自分が培ってきた日本の歯科技術を世界にアピールしたい!という思いもあります」

続いては理学療法士。

普段は医療機関や介護施設で障害のある人のリハビリをサポートしているが、五輪では負傷した選手の応急処置、競技後のマッサージなど、スポーツトレーナーとしての役割を担う。組織委はすでに日本理学療法士協会に人材募集を依頼、10月中旬から同協会は会員向けに募集を開始した。

「誰がやるんや?   こんな案件。ふざけんな!」
 
そうツイッター上で怒りをぶちまけていたのは、関西を拠点に、主にテニス選手のトレーナーとして活動している理学療法士の西川匠(たくみ)氏だ。彼に話を聞いたところ...

「組織委は東京五輪に向けて500人程度の理学療法士を集めるつもりですが、応募条件には『理学療法士の資格取得後5年以上』『スポーツ分野の 実務経験3年以上』『外国語に関する一定の語学力を有していること』とある。

私たち現場の人間からしたら、その条件に当てはまるのは国際経験が豊富なプロ中のプロ。一日拘束で日当3万円は稼げます。それを報酬ナシ、しかも宿泊や移動は『自身で確保』って......。英語で理学療法を提供できるようになるまで、 ボクたちがどれだけ労力と時間とお金をかけてきたと思っているのでしょう」

西川氏が続ける。

「世界中の選手が集まる五輪は、未来ある若手の医療従事者にこそチャンスを与えるべきです。参加すればいい経験となり、その後のキャリアアップにも弾みがつく。でも、組織委が求める人材はハイスペックすぎて、若い人ほど参加しにくい。彼らが成長するチャンスを閉ざしてしまったままでいいのでしょうか?」

◆後編⇒「五輪に参加するために九州から上京した」薬剤師まで。医師も無償で働く東京五輪ボランティアの光と影