男は世界の果てまで行く。なぜなら、そこに間もなく姿を消す「絶滅危惧兵器」があるから――。もちろん仕込みナシ、やらせナシ、そしてトラブル頻発!

ガチンコすぎる58日間、合計7万5000kmを駆け抜けたフォトジャーナリスト・柿谷哲也氏の魂のリポートだ!

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今年2月から3月にかけて、航空自衛隊・百里(ひゃくり)基地(茨城県)で戦闘機F-4EJ改ファントムを撮り続けた。2020年度に全機退役することが決まっている名機の姿を、書籍に残すためだ(『永遠の翼 F-4ファントム』として11月に発売)。

以来、頭の中では、常に自問自答が駆け巡っていた。"絶滅危惧"とされている世界中の珍兵器を、今撮らずしていつ撮るのだ、と。

かくして筆者はこの秋、計58日間、総移動距離7万5000kmの旅に出た。

【珍1】アントノフAn-2

アントノフAn-2(韓国)。1947年に旧ソ連のアントノフ設計局が開発した複葉機。韓国軍が対北朝鮮特殊作戦用に約20機保有しているとされるが、韓国政府は公には認めていない。南北融和でお払い箱近し? アントノフAn-2(韓国)。1947年に旧ソ連のアントノフ設計局が開発した複葉機。韓国軍が対北朝鮮特殊作戦用に約20機保有しているとされるが、韓国政府は公には認めていない。南北融和でお払い箱近し?

第2次世界大戦後に旧ソ連で開発されたアントノフAn-2は、北朝鮮が半島有事の際、大量の特殊部隊を韓国に潜入させるために保有していることで有名だ。だが、実は韓国も同機を持っていることはあまり知られていない。韓国政府がそれを公に認めていないからだ。

2009年に墜落事故を起こしたときの発表は「雑用機」。塗装は真っ黒だった。16年に再び墜落すると、今度は「練習機T-11」と発表。さすがにおかしいと航空雑誌などメディアが騒ぎ、筆者も同機の存在を知った。

韓国の専門家の話では、韓国軍は半島有事の際、北朝鮮の同機種が韓国から北へ帰るのに紛れさせて飛ばし、特殊部隊を投入しようと考えているという。

しかし現在、韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は南北融和を推し進めており、こうした特殊作戦の存在自体が抹消される可能性もある。そうなればAn-2も不要になるため、今撮っておくべき"絶滅危惧種"だと判断した。

同機の基地は、韓国南西部のソンムにある。現地に向かってレンタカーで高速道路を走っていると、前方にまるで幼稚園バスのような緑色の塗装を施した航空機が飛んでいるのが見えた。

あっ、An-2だ!!

実にラッキーな遭遇だ。クルマを止め、撮影開始。ファインダー越しに見ると、機体には民間機登録ナンバーが記され、それでいて韓国の国旗マークもある。"軍用民間機"ともいうべき、国際社会の常識ではありえない体裁だ。

民間機を国家が使用した例としては、CIA(米中央情報局)のエア・アメリカ機があるが、隠密作戦用なので当然、国旗マークはなかった。韓国のAn-2も、作戦時にはまったく違う塗装になるのだろうが、なんとも意味不明な機体だった。

【珍2】ミラージュF-1

ミラージュF-1(モロッコ)。今や仏ダッソー社製機の代名詞となっている三角翼が導入される前の貴重な機体。1960年代に空自が主力戦闘機としてF?4戦闘機を導入する際、対抗馬として候補に挙げられていた ミラージュF-1(モロッコ)。今や仏ダッソー社製機の代名詞となっている三角翼が導入される前の貴重な機体。1960年代に空自が主力戦闘機としてF?4戦闘機を導入する際、対抗馬として候補に挙げられていた

続いて筆者はアフリカ大陸、ジブラルタル海峡南側のモロッコに飛んだ。

モロッコ海軍主力艦隊18隻を一気に撮ろうと、海軍基地港の目の前にある築150年のホテルの最上階(5階)の部屋を取った。狙いどおり、ベランダからは艦隊が一望できる。カメラに望遠レンズを装着し、出港を待った。一日で撮影が終われば、名作戦争映画『ブラックホーク・ダウン』の撮影地を観光できる。

しかし、モロッコ艦隊は丸3日間、1隻たりとも動くことはなかった......。なんのためにモロッコまで来た!?

モロッコ海軍の基地港をホテルの最上階(5階)の部屋から一望。エレベーターはなく、重い荷物を必死で運んだのに、艦隊は3日間ピクリとも動かなかった モロッコ海軍の基地港をホテルの最上階(5階)の部屋から一望。エレベーターはなく、重い荷物を必死で運んだのに、艦隊は3日間ピクリとも動かなかった

筆者は気持ちを切り替えた。実は、モロッコにも"絶滅危惧戦闘機"がいるのだ。

1966年に仏ダッソー社が開発したミラージュF-1。ミラージュといえば独特の三角翼がお家芸だが、同機はその導入より前の貴重な機体で、今も現役で運用しているのはモロッコ空軍だけだ。

エアショーが行なわれるマラケシュ空軍基地までバスで移動し、出番を待つ。近くにいたカメラマンに聞くと、「前回もF-1は出てない。今回もわからないよ」と言われ、泣きそうになる。

しかし、そこに4機編隊のF-1が突然、現れた!

撮れたのはよかったが、ひとつわかったのは、モロッコ空軍のルーズさ。編隊のフォーメーションも、基地に飛来するコースも、毎回バラバラなのだ。空自なら、誰がパイロットでも同じ目標をしっかり狙って入ってくる。

ともあれ、残存するF-1はあと数十機だけ。できる限り長く飛んでほしいものだ。

【珍3】F-104スターファイター

F-104スターファイター(ノルウェー)。米ロッキード社が1954年に開発。当時としては最速級のスピードを誇った名戦闘機で、ノルウェーのほかドイツでも動態保存(飛べないが地上走行はできる状態での保存)されている F-104スターファイター(ノルウェー)。米ロッキード社が1954年に開発。当時としては最速級のスピードを誇った名戦闘機で、ノルウェーのほかドイツでも動態保存(飛べないが地上走行はできる状態での保存)されている

アフリカ大陸を後にした筆者は、今度は極寒の北欧へ。NATO(北大西洋条約機構)の東西冷戦後最大規模の演習を取材するためだ。

まずはフィンランドで海軍演習を取材し、それからノルウェーの北極圏にあるボード基地で、明らかにロシアの侵攻を意識した「トライデント・ジャンクチャー」という着上陸訓練を撮影。しかし、どこにも珍兵器がない......。

筆者が基地広報に「もっとほかにないのか?」と聞くと、「明日、航空ファン向けの公開イベントがある。来る?」という。早く言ってよ、それ!

翌日、欧州各地から集まった航空ファンたちに交じって待っていると、突然、広報のアナウンスが響く。

「皆さん、準備が整いました。森のほうをご覧ください」

基地の奥にある森の中から、ジェットエンジンの音が響く。顔を出したのは......なんと、F-104スターファイターの複座型練習機だ!

同機は1954年に初飛行、総生産2598機のベストセラー機。今回登場したのはもちろん退役後の機体で、飛ぶことはできず地上滑走のみだが、操縦するのは現役当時に乗っていた退役パイロット。機体が眼前を行き来するだけで航空ファンは大騒ぎ!

「引退したパイロットが喝采を浴びることで、現役パイロットのモチベーションが上がるんです」(基地広報)

飛べなくとも戦闘機を保存しておくには整備が必要でお金もかかるが、同機の保存にはやはり引退した整備士が活躍しているという。そういうところにも気を配ることで、国防意識を高めると同時に、軍の士気も高めているのだ。

ちなみに、その翌日、筆者はノルウェー陸軍の戦車部隊を友人の台湾人ジャーナリストと一緒に取材した。すると突然、戦車部隊の小隊長が近づいてきて、「NATO発行の取材許可証とパスポートを提示しろ」という。

「われわれは中国のエスピオナージ(スパイ活動)を警戒するために、上層部に報告が必要なんだ」

驚いた。北欧の片隅にいる、戦車部隊の末端の指揮官までが中国を警戒しているのだ。

【珍4】河川艦隊指揮艦

河川艦隊指揮艦(セルビア)。上流はハンガリー、下流はブルガリアへ続くドナウ川からの敵の侵入に対抗すべく、旧ユーゴスラビア軍の河川海軍がシンボルとしていた幻の指揮艦。1939年製で、見た目はほぼ観光船 河川艦隊指揮艦(セルビア)。上流はハンガリー、下流はブルガリアへ続くドナウ川からの敵の侵入に対抗すべく、旧ユーゴスラビア軍の河川海軍がシンボルとしていた幻の指揮艦。1939年製で、見た目はほぼ観光船

今度は東欧へ。セルビアの首都ベオグラードで、戦車パレードがあるとの情報を同業者の友人から入手したのだ。この友人とは、かつてイランに絶滅危惧戦闘機F-14トムキャットを一緒に撮りに行った際、同国の革命防衛隊に逮捕・監禁されたことがある。

パレードが行なわれるというメインストリート沿いの高級ホテルにチェックインしたが、どうも様子がおかしい。どこを見ても、翌日に数百両の戦車がパレードするという気配がないのだ。

1990年代のコソボ紛争でNATOの空爆を受けたセルビアでは反米・反NATO感情が強く、NATOを糾弾する横断幕が町なかに掲げられていた 1990年代のコソボ紛争でNATOの空爆を受けたセルビアでは反米・反NATO感情が強く、NATOを糾弾する横断幕が町なかに掲げられていた

ホテルのフロントに聞くと、

「パレード? そんなのありませんよ」

終わった......。

翌日、昼間からドナウ川沿いのバーで友人とビールを飲んで憂さ晴らししていると、上流から見慣れないタイプの艦船が航行してくる。

かっ、河川艦隊指揮艦!!

1939年製。旧ユーゴスラビア時代、広大なドナウ川からの敵の侵攻を恐れた河川海軍が、それに対抗するためのシンボルにしていた艦艇だ。今ではめったに動いているところを見ることはできない。思わぬ僥倖(ぎょうこう)に、戦車パレードの傷はすっかり癒えた。

★後編はコチラ!

●柿谷哲也(かきたに・てつや)
フォトジャーナリスト。1966年生まれ、神奈川県出身。世界各国の陸・海・空軍を幅広く取材し、"絶滅危惧兵器"の撮影にも執念を燃やす。著書に『永遠の翼 F-4ファントム』(撮影、並木書房)、『シン・ゴジラ機密研究読本』(編著、KADOKAWA)、『知られざる潜水艦の秘密』(サイエンス・アイ新書)など