女子アナブームの先駆者となった有賀さつきは昨年1月に逝去。彼女がアナウンサーとしてデビューしてから30年の月日がたち、「女子アナコンテンツ」自体が消費し尽くされた感がある。
タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。
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このところ立て続けに各局の現役女性アナたちとプライベートでご飯を食べたのですが、今まさに30年続いた「女子アナの時代」が終わろうとしていることを確信しました。
女子アナブームの始まりは1988年にフジテレビに入社した三人娘、有賀さつきさん、河野景子さん、八木亜希子さん。「女子アナ」という不思議な言葉もこのとき誕生します。
やがて各局が競って人気アナを育て、週刊誌は「女子アナ30歳定年説」と勝手な定説をつくり上げては、新人アナが先輩を追い抜くさまや人気アナのゴシップを面白おかしく報じました。
有名企業の箱入り娘から、アイドル顔負けの人気者になった若手女性アナたち。「才色兼備のお嬢さま、かつ高給取りの正社員」という無敵のスペックが人々の羨望(せんぼう)をかき立てました。元フジテレビの中井美穂さんや有賀さつきさん、雨宮塔子さん(元TBS)などのアナウンサーの「天然ボケ」を楽しむギャップ萌えに始まり、女子アナのタレント化が定着すると、高島彩さん(元フジ)のようにぶっちぎりのかわいさに加えてアナウンス技術や司会力も高いことがリスペクトされるという逆説的ギャップ萌えに。
やがて小林麻耶さん(元TBS)が女子アナの自己模倣ともいえるぶりっ子キャラで一世を風靡(ふうび)し、女子アナの記号化が極まると、「若くて細くてかわいくて計算し尽くされた人工的女子」から逸脱した親しみやすさと現実味萌えで、有働由美子さん(元NHK)や水卜麻美さん(日本テレビ)が人気を博します。ここに至って、あらゆるギャップが味わい尽くされた感がありますね。まさに女子アナというコンテンツ自体が30歳で定年を迎えたといえそうです。
そこへ新たな流れが生まれたのが昨年の#MeTooと財務事務次官によるテレビ朝日女性記者へのセクハラ事件でした。1月の#MeToo特集ではNHK『クローズアップ現代』の鎌倉千秋アナが熱のこもったメッセージを伝え、セクハラ事件ではフジテレビの女性アナたちやテレビ朝日『報道ステーション』の小川彩佳アナが自身の意見をはっきりと述べました。制作者の意図をくんで出しゃばらず進行することが求められる女性アナウンサーがこれをやるのは、とても勇気がいることです。
「実は最近、アナウンサーの受験者が減っている」とは、あるキー局アナの話。歴代の人気女子アナを輩出した別のキー局のアナは「若いコには、もうおバカキャラはウケないからやめなさいって教えている」。今や女子アナブランドは安売り状態。視聴者も見飽きています。
これからはテレビの中でも普通の職場でも、女性が"華"ではなく、ひとりの大人としてリスペクトされるようになりますように。さよなら女子アナ! 本当にお疲れさまでした。
●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『幸せな結婚』(新潮社)、『絶対☆女子』(講談社)など