「アニメならたいていこんな感じでは」と考えてしまったのでは

女子テニスの大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝。一方、彼女と契約する日清食品のアニメCMで描写された姿が「差別的表現」として、世界的なバッシングを浴びる騒動に。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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テニスの全豪オープンで優勝して世界ランキング1位になった大坂なおみ選手。英字メディアでも「アジア人初の優勝」と報じられ、試合後のスピーチでの自然で謙虚な態度も素晴らしいと讃(たた)えられています。

記者会見で質問が出たのはスポンサーである日清食品のアニメ動画広告の「ホワイトウォッシング」について。大坂選手の肌が白く、髪や顔立ちがヨーロッパ人風に描かれていたことが問題視されました。大坂選手は「悪気はなかったのだと思うが、怒る人がいるのはわかる。経緯はよく調べなければわからないが、次からは私に確認してほしい」という旨の回答をしています。

「細かいことを気にしすぎ。騒ぐ人のほうが、差別意識がある」と思った人もいるかも。でも、白人とは違う人種を白人に似せて描くことはその人のルーツに対する敬意に欠けるだけでなく、白人こそ美の基準とする価値観の表れ、つまり人種差別的な行為と見なされるのですね。

ただし、その視点で見たら、日本のアニメはもともとかなりホワイトウォッシングされた表現。登場人物はみな目鼻立ちがはっきりした西洋人風の顔立ちだし、肌の色も明るい。それが「人物をすてきに描く」ことの定番となっていて、白人に似せたとか、日本人の特性を無視しているという意識はないでしょう。

私も子供の頃、お目目キラキラで尖った鼻の女の子ばかり出てくる少女マンガをなんの疑問もなく読んでいました。広告を制作した人たちも大坂選手の描き方について「アニメならたいていこんな感じでは」と考えてしまったのでは。一緒に登場する錦織 圭(にしこり・けい)選手だってアニメ風にアレンジしてあるのだし、と。

つまり日本人のマンガやアニメでの自己イメージがすでにかなり西欧化されたものなので、今回のことに抵抗や疑問を感じなかったどころか、錦織選手も大坂選手も整った容姿に描いたのだからいいだろうと思ったんじゃないかと思います。

「白人に似せた」と取るのか、「アニメ風に表現した」と取るのか。国際的な反応は前者だと知っておくことは大事でしょう。

ただ同時に、欧米メディア側にも東洋人=肌の色が黄色がかっていて顔が平たく目が細いというステレオタイプなイメージが刷り込まれており、それと異なる表現をすると「白人に寄せている」と言いたくなるのだとも考えられます。

大坂選手は肌の色は浅黒く、顔立ちは日本的です。日本の人が彼女をアニメ化するときに西洋風バイアスをかけてしまうように、西欧の人が彼女をアニメ化する際に期待するのはそんなアジア人らしい顔立ちなのかも。

今は日本で生まれる子供の50人に1人が複数のルーツを持つ時代。多様な日本人像があることを前提に、表現の仕方も変わっていくのだと思います。

●小島慶子(こじま・けいこ)     
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『幸せな結婚』(新潮社)、『絶対☆女子』(講談社)など

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