映画『翔んで埼玉』は連日超満員。街の人気も急上昇。かつてダサイタマと呼ばれた地はいつの間にか話題の県に!
県内事情を取材してわかったその衝撃の理由とは?
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■ダサイタマという言葉はある歌がきっかけだった
映画『翔んで埼玉』(2月22日公開)が、公開3日間で24万人の観客動員を超え、『カメ止め』や『ボヘラプ』に迫る勢いの大ヒット!
また、「住みたい街ランキング2019」(不動産情報サイトSUUMO調べ)では、大宮が4位、浦和が8位に急上昇し、今や埼玉は大注目の県になっている。
しかし、埼玉はかつて"ダサイタマ"と言われ、バカにされていた県だ。映画『翔んで埼玉』でも、「夏に行きたい都道府県ワースト1」「冬に行きたい都道府県ワースト1」「郷土愛ワースト1」「経験人数ワースト1」「貧乳率ナンバー1」と自虐的な売り込み方をしている。
そもそも、なぜ"ダサイタマ"と呼ばれるようになったのか。『翔んで埼玉』の劇中歌『なぜか埼玉』を歌っているタレントのさいたまんぞう氏に聞いた。
「僕は1980年の年末に自主制作で『なぜか埼玉』という歌を作ったんです。すると翌年、ニッポン放送の『タモリのオールナイトニッポン』で、面白い曲があると紹介してくれた。その頃、タモリさんは名古屋をバカにしていたんですが、この曲をきっかけに今度は埼玉をバカにするようになったんです。それで自然と"ダサイタマ"という言葉が生まれ、埼玉県はダサいというイメージがつくられていったんですね」
"ダサイタマ"ブームのきっかけとなったのはさいたまんぞう氏の『なぜか埼玉』という曲だったのだ。
では、なぜ今また埼玉が注目されているのか。
それは、映画の原作となった魔夜峰央(まや・みねお/代表作に『パタリロ』)のマンガ『翔んで埼玉』(1982年にマンガ雑誌『花と夢』に掲載。その後1986年に短編集に収録)が2015年に復刊され、SNSなどで人気になったからだ。
「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」「ああいやだ! 埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」などという過激なセリフが、自虐好き(!?)な埼玉県民を中心に盛り上がったのである。
■今は「志木vs和光」「春日部vs越谷」が熱い
そこで、長年ディスられてきた埼玉の本当の姿を明らかにするべく『なぜ埼玉県民だけがディスられても平気なのか?』(徳間書店)の著者で、埼玉情報発信サイト『そうだ埼玉.com』編集長、鷺谷政明(さぎたに・まさあき)氏に埼玉の真の姿を聞いた。
「まず、他県の人から『埼玉って何もないよねー』と言われたときに、埼玉県民は『秩父(ちちぶ)という観光スポットがある!』と胸を張って言います。しかし、埼玉県民はほとんど秩父に行ったことがありません。"埼玉の秘境"といわれている秩父ですが、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の舞台でもあり、観光客が多いことから、秩父は"埼玉の独立国家"と考えられているのです。
本当の埼玉の秘境は小鹿野(おがの)です。東京に出るために、自転車で山を越えて秩父まで行って、そこから電車に乗る知り合いを何人も知っています。そのため僕は小鹿野を"埼玉のマチュピチュ"と呼んでいます。
日本の最高気温記録41.1℃を誇る熊谷(くまがや)市は、その暑さから"埼玉の砂漠"と呼ばれていて、その左隣の深谷市はネギの生産量日本一。深谷ねぎで有名です」
群馬県に近い本庄(ほんじょう)市、上里町(かみさとまち)、美里町(みさとまち)あたりは"ほぼ群馬"と呼ばれているという。
「理由は東京に出るよりも、JR高崎線を使って高崎や前橋に出たほうが早いため」
埼玉といえば「大宮vs浦和、どちらが埼玉の中心か」問題が有名だ。
「浦和は県庁所在地ですが、大宮のほうが人口が多く、街が発展しています。また、新幹線も止まります。さらに住みたい街ランキングでも、浦和より大宮のほうが上。浦和も頑張ってパルコをつくったのですが、残念なことにあまりにぎわっていません」
大宮の圧勝らしい。そして「大宮vs浦和」ほどメジャーではないが、今ホットなのは、「志木(しき)vs和光(わこう)」だ。
「かつて、埼玉南西部エリアナンバーワンの街は志木でした。しかし、今は和光のほうが人気が高い。『住みたい街ランキング2018』穴場だと思う駅ランキングで3位に入っています。理由は東京への近さ。東武東上線、東京メトロ有楽町線、東京メトロ副都心線の3線が乗り入れている交通の便利さ。そして、大宮よりも家賃が安いこと。そのため、和光の人は『俺たちは東京と共にある』と"ほぼ東京"宣言をしています」
埼玉の東部には草加(そうか)・越谷(こしがや)・春日部(かすかべ)がある。このエリアの勢力図も変わってきた。
「かつては『クレヨンしんちゃん』で有名な春日部が力を持っていましたが、イオンレイクタウンができたことで、越谷の人気が高まっています」
また西武線沿いは、西武ドームを擁する所沢のひとり勝ちかと思っていたが、どうやらそう単純でもないらしい。
「3月16日、飯能(はんのう)市にムーミンバレーパークがオープンするんですが、埼玉の一大スポットになる可能性が高い。やっと埼玉が世界に誇れるテーマパークが誕生します!」
......しかし、ここまで詳細に話を聞いても、「結局、埼玉の魅力はイマイチ伝わらない」と感じた読者も多いのでは? そこで、あらためて鷺谷氏に「埼玉県」の魅力を聞くと......。
「結局、埼玉の魅力は『東京に出やすい』『ディズニーランドに行きやすい』『群馬などの温泉に行きやすい』『千葉などの海に行きやすい』ことなんです。埼玉のよさは、埼玉県内のことでは語れません。周りの県や地域の使い勝手のよさにあるんですよ」
また、よくディスられることに対しても......。
「埼玉はよくネタにされていますけど、これが他県にはマネできない魅力なんです。いわば、ディスられ芸。芸能界でいえば、出川哲朗さんみたいな立場ですね。だからこそ、映画『翔んで埼玉』を作ることができたわけですし、それを埼玉県民も楽しんで見ているということです」
最後に埼玉県は貧乳ナンバーワンというデータ(2012年に美容関連サイト『LCラブコスメ』が発表)について埼玉出身の巨乳グラビアアイドルAKOさんに聞いてみた。
「みんな正直にカップ数を答えているんですよ。埼玉県民は見えを張れないんです」
見えは張らずに、いじられるのを楽しむ。ギスギスした世の中で、この肩の力が抜けた県民性が、今の埼玉の人気を支えている本当の理由なのかもしれない。