全品298円(税抜き、以下同)を掲げる焼き鳥チェーン「鳥貴族」が2019年7月期の業績予想を大幅に下方修正し、上場以来初の赤字に転落する見通しとなった。
鳥貴族といえば、国産鶏肉を店でカットし、従業員の手で串打ちする鮮度の高さと、「メガ金麦(700ミリリットル)」や「プレミアムモルツ」でさえも均一価格(298円)で飲ませてくれるコストパフォーマンスの高さが人気。08年に100店舗を達成すると、11年に200店、13年に350店、17年に567店と出店ペースを急加速させ、現在は678店まで増やしている(19年2月末現在)。
『居酒屋チェーン戦国史』の著者で、外食ジャーナリストの中村芳平(よしへい)氏は苦戦の原因をこう分析する。
「鳥貴族は17年10月、『全品280円』だった価格を298円に値上げしました。それ以降、既存店売り上げが14ヵ月連続で前年割れするなど、客数減で苦戦しています。加えて、出店拡大のスピードに従業員教育が追いつかず、サービスレベルが落ちたことも客離れの一因でしょう」
16年には南柏店(千葉県)で、焼酎と間違えて消毒用のアルコール製剤を入れた酎ハイ151杯を客に提供していたことが発覚している。
ただ、もちろん不振の原因はそれだけではない。その背景には、居酒屋業界特有の熾烈(しれつ)な価格競争がある。
鳥貴族が急速に店舗数を伸ばす間、総合居酒屋型のモンテローザやコロワイドといった大手チェーンは深刻な客数減に見舞われた。だが、「出る杭(くい)は打たれるのが居酒屋業界」(中村氏、以下同)。苦戦を強いられていた競合チェーンは、「既存店を、鳥貴族のメニューやコンセプトに似せた店に続々とくら替え」するという"模倣戦略"で徹底抗戦を仕掛けた。
モンテローザが「笑笑」や「白木屋」を業態転換させた全品280円均一の「豊後高田どり酒場」や、コロワイドの均一価格(串焼き280円)チェーン「やきとりセンター」、ダイナミクスが展開する全品270円の「鳥二郎」などがその典型だ。
こうした競合チェーンが17年10月に鳥貴族が値上げした後も低価格を維持したことが、鳥貴族の顧客流出の大きな要因となったわけだが、そこにはこんなカラクリもある。
「均一価格を掲げる焼き鳥チェーンの中には、"均一対象外"の高価格メニューを導入し、その割合を増やすことで客単価を上げる戦略を採っているケースもあります」
一方、鳥貴族は値上げ後も対象外のない「全品均一価格」にこだわり続けている。
「鳥貴族の大倉忠司社長は、顧客の目を欺くような経営は絶対にやらない人。その真正直な性格が、今は裏目に出てしまっているともいえますが......」
今期中に21店舗を閉鎖する方針も打ち出した鳥貴族。苦戦は今後も続くのだろうか?
「今期赤字に陥るとはいえ、同社が過去に蓄積した利益を考えれば、大した問題ではありません。一方、今年10月の消費増税を機に、これまで値上げせずに耐えてきた競合チェーンは価格を維持できなくなるでしょう。そのときを見据え、鳥貴族はなんらかの手を打ってくるはずです」
3月のある平日の夜、東京・新宿にある鳥貴族を訪れると、店内は満席で入店待ちの客が列をなしていた。3月7日から2ヵ月間、1192円という安さでドリンク全品が飲み放題になるイベントを全店で実施している影響だ。
「おかげさまで店内は連日、にぎわっています」(店員)
鳥貴族の"逆襲"はすでに始まっている。