法人の登記手続きがデジタル化で簡略化されると、印鑑業界のみならず司法書士なども大きな影響を受ける

「国民は何も得をしない。得するのは一部の議員と業界だけ!」

日本人になじみの深い「はんこ」をめぐり、特定の団体や人物に批判が殺到している。

行政手続きの100%オンライン化を目指し、法人設立時の印鑑届け出義務をなくすなどの内容を盛り込んた「デジタルファースト法案」。ところが、印鑑業界などの反発を受け、今国会での提出が見送られたというのだ。

会社の登記だけでなく、日本では個人の行政手続きの際にも印鑑が必要とされる場面が多々ある。「正直、めんどくさい......」と思ったことのある人も少なくないだろう。

今回、特に注目されたのは、昨年11月に発足した「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」、通称「はんこ議連」だ。

〈印章業界がデジタル化に取り残されないように、対応策をしっかりと議論していきます〉

同月のこんなツイートが"発掘"され、批判が殺到した同議連所属の自民党・中谷真一衆議院議員にその真意を聞くと......。

「印鑑を悪者にする必要はなく、ひとつの認証制度として残したらどうかと提案しているだけで、デジタル化に反対しているわけではない。サインが電子化しているように、はんこも電子化すれば、ペーパーレスの問題も解決できます。今の電子化技術なら、印鑑の彫りの深さも読み取れるので、偽造もされない。むしろ指紋認証などは、一度データを盗まれたら取り替えられないため、逆に危ないですよ」

そんな中谷議員の地元・山梨県は、全国シェア約70%を誇る印鑑の一大生産地だ。同県の印鑑店店長はこう言う。

「政治家の方には、はんこを守る活動を一生懸命やっていただきたい。票のためにという批判があることも理解しているが、われわれの生活を守るためになんとかお力添えをと思っています。

時代の流れで仕事が先細りになるのは仕方ありません。印鑑業界は後継者がまったくおらず、店も減っている。ただ、認印は簡略化され、使われなくなると思うが、実印を使う制度は死守してほしい」

ただ、実は法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化に反対する業界はほかにもある。デジタルファースト法案に含まれる「公証人による法人の定款認証の簡略化」の影響を受ける、日本弁護士連合会や日本司法書士会連合会も反対意見を表明しているのだ。

日本司法書士会連合会の樋口威作夫(いさお)常務理事はこう話す。

「(法人の)実印の届け出制を一足飛びに即時廃止するのではなく、まずは任意(選択制)でやってほしいという要望です。これまで実印が果たしてきた機能を担保、あるいは代替できるインフラが整備されたときに変えたらいい」

樋口理事によれば、印鑑業界の全国組織の一部から、日本司法書士会連合会にも反対の協力要請があったという。

「会社の実印は、印章業界としては大事な売り上げの一部。会社設立、役員の変更登記などに日常的に司法書士が関与しているとの認識から、うちに話があったのです。ただ、組織同士で共闘していくというわけではありません」

同法案は秋の臨時国会で審議される見込みという。印鑑ファーストより国民ファーストであってほしいが......。