御年82歳の劇画家・書家の平田弘史先生

ホ~ホケキョ♪ ウグイスの清らかな鳴き声が聞こえる庭には、桜の花びらが舞っていた。春の陽気に包まれた桃源郷を思わせる風景。ここで今、静かに筆を振るう袴(はかま)姿の武士がひとり――。

4月1日に新元号が発表された翌日の早朝。週プレは御年82歳になる伝説の劇画家が住む静岡県伊東市に急ぎ向かった。時代マンガの第一人者として世界的な評価を得る一方、書家としての顔も持つ平田弘史(ひらた・ひろし)先生は『AKIRA』や『風雲児たち』などの題字を手掛けたことでも知られている。

先生とは2月9日発売号で表紙ロゴの「プレイボーイ」を書してもらったご縁がある。新時代の始まりを目前に、読者の背中を押すような力強い「令和」を掲載したい。そんな思いを込めて依頼すると、急なお願いにもかかわらず快く引き受けていただいた。

パーキンソン病を患い、手足の自由が利かなくなってもなお、創作にかける姿勢に一切の妥協はなし。一枚書いては休み、また書いては休み。太陽が傾くまで、大判の紙に何度も筆を走らせ続けた。

■ドキュメント 令和vs平田

うまい字なら書家に頼めばいい! 俺流、平田弘史流に書かないと意味がない。難しい。なかなかイメージが出てこない。やはりこの漢字は縦に書かないと収まりが悪い。

新元号の発表は妻と一緒に見た。「令」はまったく思い当たらなかったが、「和」はなんとなく使われる予感があった。(数枚書いて)う~ん、やっぱり難しい。概念が入ってこない。字はそう簡単には書けないものだ。

令和という書にどんな意味を込めるのか。(おもむろに筆を走らせ、上の文章を書き終えて)宇宙、神様や仏様は人間社会を見守っている。見守っているだけで指図はしない。人間は自由に動いている。

では人間にとって大切なものとは? 「和」の心は譲り合いの精神だ。人々がこの精神を持てば悪い方向には行かんでしょう。地球で考えると、アメリカ、北朝鮮、中国、ロシア......ひとつ間違えば破滅に至る可能性だってある。俺は知らん、関係ないと言ってそっぽを向けば権力はさらに暴走する。無関心はいかん。今、そんなことを考えながら書こうとしています。

何かいいアイデアは出てこないものか。ちょっと乱暴に書いてみよう。ほう、「和」の「口」を丸く書くと気分が出てきたか。(撮影も終えて)よし、どれでも好きなものを使ってください。以上!

令和に引き継ぐ士魂の生き様。桜は散れども、平田は散らず

●平田弘史(ひらた・ひろし) 
令和に引き継ぐ士魂の生き様。桜は散れども、平田は散らず1937年2月9日生まれ、東京都出身。1958年に『愛憎必殺剣』でデビュー。主な作品に『血だるま剣法』『弓道士魂』『首代引受人』『平田弘史のお父さん物語』『無名の人々異色列伝』などがある。2013年に日本漫画家協会賞文部科学大臣賞を受賞