「日本のひきこもり問題を考えるとき、その根底にひとつの社会的圧力があると感じます」と語るマッカリー氏 「日本のひきこもり問題を考えるとき、その根底にひとつの社会的圧力があると感じます」と語るマッカリー氏

3月に内閣府が初めて行なった「中高年のひきこもり」に関する調査で、40~64歳のひきこもりが全国で推計61万3千人と、15~39歳のひきこもり(推計54万1千人)を、大きく上回っていることが明らかになった。かつては「若者の問題」と思われていたひきこもりが高齢化、長期化しつつあるのだ。いよいよ始まった令和の時代に、この問題は改善されるのか? それとも、より深刻化するのか? 

「週プレ外国人記者クラブ」第140回は、「孤独問題担当大臣」のポストがあるイギリス出身で、「ガーディアン」紙の東京特派員、ジャスティン・マッカリー氏に話を聞いた――。

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──内閣府の調査で「40代以上のひきこもり」が急増していることが明らかになりました。マッカリーさんはこの結果をどのように受け止めましたか?

マッカリー 中高年を対象とした、政府によるひきこもりの実態調査は今回が初めてだったわけですが、正直、結果自体には驚いていません。僕は長年、日本のひきこもり問題について取材してきましたし、かつては若かったひきこもりの人たちがそのまま年を取れば、中高年のひきこもりが増えていくことは当然だからです。

──それに加えて、平成の約30年間では企業のリストラも多く、非正規雇用も増加していますから、当然、中高年になって新たにひきこもりに陥る人も増えていそうです。

マッカリー そう思います。今回の調査結果はある程度予想できていたことで、それ自体に大きな驚きはないのですが......僕自身も40代ですから、彼らと同世代。「自分と同世代の人たちが大量にひきこもっている」と考えると、やはり複雑な気持ちになりますね。特に40代のひきこもりについては、バブル崩壊直後の「就職氷河期時代」に社会人になった、いわゆる「ロスジェネ」の人たちですから、これは「ロスジェネ世代の中高年化問題」と見ることもできそうです。

──イギリスでは昨年、「孤独問題担当大臣」という役職が新設され、国内の孤独者対策に力を入れていると聞きました。

マッカリー これは社会的孤独者への対策に力を注いでいた労働党の政治家で、2016年、EU離脱を問う国民投票期間中に暗殺された、故ジョー・コックス下院議員の遺志を継ぐ形で設けられたポストです。

イギリスでも社会的孤独者の増加は大きな社会問題となっていて、テリーザ・メイ政権が孤独担当大臣を任命後、昨年10月に「孤独者対策」を発表。問題解決のため、各省庁が横断的に対処すること、小中学校などの教育で孤独の問題についての理解を深めること、社会的孤独者を救済するための地域ボランティア制度などの試験的な取り組みを行なうことなどを提言しました。ただ、独居高齢者の増加など非常に多岐にわたる問題を対象にしているので、必ずしも日本のひきこもり問題と重なるわけではありません。

近年、イギリスの孤独者問題で議論になっているのは、SNSなど、インターネット上でしか社会と繋がりを持てない人たちの問題です。ネット上のコミュニティでは、自分と同じような興味や意見を持つ人たちとだけ繋がりやすく、その結果、多様な考え方を受け入れられない人たちが増えている気がします。

日本のひきこもり問題を考えるとき、その根底にひとつの社会的圧力があると感じます。それは、多くの人たちが「普通」だと考えている生き方のモデルに縛られているということです。例えば、学校を卒業して、企業やお店に就職して、安定した収入を得て......「一般的な人生」を歩むべきだというプレッシャーがあり、そのルートから外れることに強い恐怖心がある。そして、そこから「脱落した」と思い込んだ人たちが、絶望感から「社会との繋がりを断ち切ってしまう」というケースが多いということです。

もちろんイギリスにだって、そうしたプレッシャーがないわけではありませんが、日本ほどではありません。日本社会は同調圧力が強い上に、そもそも「普通」というイメージの許容範囲が狭いという特徴もあるように思います。

少し前のことですが、会社の入社式に臨む新入社員の服装や髪型が、80年代の日本以上に現在は「画一化している」という記事を読んで驚きました。日本社会の持つ同調圧力は経済が停滞する中で、むしろ強まりつつあるようにすら感じます。

──日本のひきこもり問題で、今後、心配されることはなんでしょう?

マッカリー 既に難題となっている「急激な高齢化」と「中高年ひきこもり」の組み合わせがもたらす深刻な影響です。たとえば40代のひきこもりの場合、その親はおそらく70代前後の「ベビーブーマー世代」が中心だと思います。

この世代は経済的にも比較的恵まれている人たちが多く、そうした親世代の下で引きこもり続けてきた人たちが、今や40代以上の中年になろうとしているわけですが、今から10年後には「50代の引きこもりが80代の高齢者を介護する」という未来が待っている。そして、その後に日本社会を待っているのは、経済的にも自立できず、家族もいない「ひきこもり貧困孤独老人」の急増ではないでしょうか。

──そんな時代の中で、自らがひきこもりに陥らないためには、どうしたらいいのでしょうか? また、自分たちの周囲でひきこもっている人に、再び社会との繋がりを取り戻させるためには何が必要でしょう?

マッカリー 難しい質問ですね。これは広範な社会問題であり、個人が責められるべきではありません。本人の意思や能力とは関係なく、自分たちが信じていた「普通の道」から仕方なく外れざるを得ない状況も増えているわけです。そこで絶望したり、自分を責めたりしてはいけないと思いますが、それが簡単なことではないというのもよくわかります。

また、僕自分もそうですが、みんな日々の生活で精いっぱいという部分があるので、周りにひきこもってしまった人や、ひきこもりそうな人がいても、声をかける余裕がなかったり、なんとなく「余計なおせっかいかもしれない」と遠慮して、声をかけることをためらったり......ということもあるかもしれません。

しかし、ひきこもっている人も、その周りにいる人たちも、まず大事なのは「自己責任という思い込み」から脱却すること。その呪縛からほんの一歩でも外に踏み出すことでしか、状況は変わらないと思います。

●ジャスティン・マッカリー 
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で修士号を取得し、1992年に来日。英紙『ガーディアン』『オブザーバー』の日本・韓国特派員を務めるほか、テレビやラジオ番組でも活躍

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