神奈川県川崎市で登校中の児童ら20人が死傷する通り魔事件が起きた直後から、護身グッズが飛ぶように売れている。福岡県の護身用品店「KSP」の店長で、日本護身用品協会理事の白石浩一氏はこう語る。
「事件翌日から注文数が通常の10倍になりました。法人客では保育園からの受注が目立ち、その多くは園児を外に連れ出す際、保育士に携行させる目的で購入されています」
一般に買える護身グッズとは、主にスタンガン、特殊警棒、催涙スプレーの3つ。どんな品が人気なのか?
「スタンガンは電気ショックで相手を瞬時に無力化できますが、接近戦が必須。刃物を振り回す相手には不向きです。また以前、130万ボルトの強力スタンガンを自分の太ももに当てて検証しましたが、私の場合は全身に激痛が走って一時行動不能になったものの、20秒後に自分で立ち上がれる状態まで回復しました。なかにはわずか数秒で動きだせる人もいる。電撃による人体への影響には個人差があるのです」(白石氏)
特殊警棒も、なかなか一般客には薦めにくいという。
「最近の主流はアルミ合金製で、重さは旧来のスチール製の半分。女性でも意のままに操れます。ただ、長さは伸ばした状態でも65cm程度が一般的。接近戦が求められ、技術の習得も必要です」(白石氏)
白石氏が来店客に推奨するのは催涙スプレーだという。
「刃物による凄惨(せいさん)な事件が起きると、催涙スプレーの売れ行きが数倍に跳ね上がります。催涙剤が粒状に拡散しながら噴射される半液状タイプなら、有効射程は無風状態で5m、多少の風があっても3mほどある。相手が刃物を突き出しても届かない距離を保てます。また、親指でボタンを押すだけで強力な催涙剤が直径30cm前後の円状に広がりながら噴射されるので、操作が簡単で命中率も極めて高いのです」(白石氏)
しかも、最新のタイプは威力もハンパではない。
「噴射される催涙剤は辛み成分を濃縮・油状化したもので、顔にかかるとまず視力を奪われ、その痛みは想像を絶します。私はやはり自分で検証しましたが、『目に縫い針を何本も入れ、無理やりまばたきするような激痛』という表現が一番近いでしょう。
次に、気が狂うほどの痛みが顔全体を襲い、立ち上がれなくなります。私はそのまま1時間近くもがき苦しむしかありませんでした。今回の事件も、現場にひとりでも催涙スプレーを持っている人がいたら......という悔しさはどうしても残ってしまいます」(白石氏)
ただし、催涙スプレーなどの護身用品には規制がある。
「屋内で所持する限りは問題ないですが、屋外で携帯した場合、正当な理由がなければ軽犯罪法の凶器携帯罪(1000円以上1万円未満の科料など)に問われる場合があります」(都内弁護士事務所)
通り魔から身を守るため、というのが「正当な理由」に当たるかどうかは微妙で、現場の警官によっても判断が分かれるという。都内の交番勤務の警官はこう言う。
「護身用品を持ちたい心情は察しますが、われわれの立場から、この場でそれを認めるとは言えません。身の危険を感じたら速やかに110番通報をするか、逃げてください」
ハイわかりました、とはとうてい言えない現実がある。