育休は子供とのんびり遊んでいるわけではありません

カネカやアシックスで男性育休をめぐり騒動に。育児だけでなく、後期高齢者が激増するにあたり避けて通れない「介護」問題解決のヒントはここにあるかも。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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男性社員への育児休業付与義務化を目指す自民党の議員連盟が発足しました。実に心強いです。2017年度の新入社員は8割ほどが育休の取得を希望しているというし、義務化というインパクトの強い打ち出しをしてでも男性の働き方を変えないと、日本全体が立ち行かなくなるというのはもっともです。「従来型の企業戦士=働き方の基本形(女性はあくまで特例)」という考え方を変えないといけませんね。

育児には無関係の人も、介護の当事者にはなる可能性がありますから人ごとじゃありません。団塊の世代が後期高齢者になる2025年頃には働きながら介護をする人が急増するといわれています。カネカのパタハラ問題がありましたが、いやがらせをしても休む人は減らせない。休むことを前提に工夫をするしかありません。

そこで思い出したのが、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断され、40代半ばの現在も仕事を続けている丹野智文さん。丹野さんは会った人や仕事の内容の多くを翌日には忘れてしまうため、ノートに丹念に記録しているそうです。

出勤してノートを見て、やるべきことやそれに伴う必要事項をその都度確認すれば、仕事の継続性を保つことができるのだと。それだけでなく、自分が仕事を休んだときにもノートを見ればほかの人がスムーズに仕事を代わることができるといいます。

丹野さんのように自前のノートを作るのは難しくても、いつ誰が休もうとも会社がスムーズに仕事を引き継ぎやすい仕組みを整えることは大事。実際、男性の育児休業を義務づけた企業では引き継ぎを通じて仕事のノウハウが若手にシェアされたり、職場全体の効率化が進んだといいます。

育休は子供とのんびり遊んでいるわけではありません。むしろ経験を仕事に生かせるのです。

幼子というのはそれまで出会ったどんな融通の利かない上司よりも言うことを聞かず、どんな仕事のできない後輩よりも手がかかるものなので、ビジネス書を100冊読むよりも鍛えられるもの。マルチタスクをこなしつつ絶え間なく不測の事態に対応し続けることにより、判断力や決断力の鍛錬にもなる。

実際私も育児を通じて身につけたそうした力がずいぶん仕事にプラスになりました。家族のケアは職場とはまったく違う環境に身を置いて、自分の世間知らずを痛感する機会です。

職場復帰後も育児には終わりがなく、精神的に追いつめられることも。そんなときに昼休みやちょっとした雑談タイムに「育児しんどいけど子供かわいいよね」と言い合える仲間がいるだけでもずいぶん救いになります。男性は苦手とされる弱みを見せて気持ちを分かち合う交流の場としても、いいんじゃないかな。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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