サイバー犯罪が急増している。その手口は想像以上のスピードで巧妙化・複雑化しており、今や国家レベルで危険にさらされている。
本書『フェイクウェブ』は"インターネットの闇"をテーマにした問題作だ。大きな話題を呼んだ前著『闇(ダーク)ウェブ』に続く第2弾として、サイバー犯罪対策の第一人者であるセキュリティ集団「スプラウト」社長・高野聖玄(たかの・せいげん)氏が上梓(じょうし)。
ビジネスメール詐欺、フィッシング攻撃、偽出会い系サイト、仮想通貨の闇、世論を左右するフェイクニュースなど、進化し続けるサイバー犯罪の現状を丹念に解説している。
われわれは闇が深まるインターネットの世界とどのように付き合えばいいのだろうか?
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──本書の帯でも紹介されている、被害額50億円のビジネスメール詐欺事件。特殊詐欺でも、企業相手だと被害額がこんなにも膨れ上がるんですね。
高野 最近、企業へのビジネスメール詐欺被害が増えています。詐欺は被害届、告訴状が出されないと警察も動かず、上場企業でないと大きなニュースにもならないので世間的にはあまり知られていません。
──一流企業の社員がメール一通でダマされてしまうのは、不思議な気もしますが......。
高野 個人相手なら被害額も数十万円。しかし、企業相手なら不動産詐欺の地面師のように徹底的に調査・研究して億単位でダマそうとする。コストをかけてもリターンが大きいですからね。
──日本人による犯行ですか?
高野 少し前までは、被害に遭うのは海外と取引のある企業がほとんどで、犯行も外国人とみられるものが多かったんですが、最近は海外と関わりのない企業でも被害に遭いますし、何よりも詐欺メールの日本語がこなれてきている。確実に日本人が関与するようになっていると感じています。
──日本人が関与することで、より巧妙化しているというわけですね。
高野 ここ数年の大きな動きですね。違法の出会い系サイトや特殊詐欺グループの多くが東南アジアなどに拠点を移していますが、そういった犯罪組織にいる日本人が詐欺メールなどのサイバー犯罪にも関わってきているのだと思います。
──サイバー犯罪に対して、特に注意すべきことは?
高野 残念ながら、絶対に安全な解決策はありません。強いて言えば、何か送られてきてもすぐに対応しようとせず、時間を取って判断することが重要だと思いますが。
──即レスは危険なんですね。
高野 よく考えれば、フェイクとわかるケースがほとんど。SNSでも、よほど信頼している相手以外、アカウントが乗っ取られている可能性すら頭の片隅に入れておくべきです。
──例えば、アダルトサイトなどもインターネット上には無数に存在しますよね。
高野 エロ系や出会い系、金儲け系など、人の欲望を刺激するようなサイトは詐欺目的の偽サイトが多い。運営元がしっかりした会社かどうかで判断すべきでしょうね。
──よく見たら海外のサイトというケースも多いですからね。
高野 そもそも、その手のものは海外の違法サイトが多いですから、日本の法律で保護されません。どんなギミックがあるかわからないので非常に危ないですよ。最近普及しているマッチングアプリについても、当然ながら大手企業が運営しているほうが安全性は高い。そのあたりの見極めが肝心なんです。
──個人的な話なんですが、架空請求などの迷惑メールが最近よく届きます。メールアドレスが流出しているんでしょうが、何か対応策はありませんか?
高野 流出したメールアドレスへの対応は正直難しいですね。ただし、予防策という意味では、ネットショッピング用、宅配業者連絡用など、用途に応じて複数のメールアドレスを使い分けるのは効果的ですよ。
Gmailでしたら、アカウントの最後にプラス(+)と文字列をつければ、いくつでもサブアドレスとして使えるんです。
例えば、アドレスが「wpb@gmail.com」だったら、「wpb+a@gmail.com」「wpb+b@gmail.com」といったように、「+a」「+b」をつけることで、サブアドレスを作れます。
──これは便利ですね。メールアドレスを登録しないと閲覧できないサイトなどで使えそう。
高野 サブアドレスだからといって、むやみに登録するのはオススメしませんけどね(笑)。
──気をつけます......。今回、あらためてネットの闇の深さについて知りました。
高野 常に進化し続けているのがネットの怖いところ。例えば、最近ではサイバー攻撃の新しいツールとして、フェイクニュースを使う国もある。他国の世論を操作することで「見えない支配」につながっていきます。日本も国家的な防御策を早急に検討すべきだと思います。
──来年から、既存のものよりも100倍速くなるモバイル通信「5G」が開始されます。進化していくネットとどのように付き合っていけばいいでしょう?
高野 時代とともに変わりゆきますが、個々人がしっかりとした情報リテラシーを持つことが大切です。インターネットでは自分が見たくない情報を勝手に遮断する機能が働くため、"泡"に包まれているように、自分が見たい情報しか入ってこなくなる。少なくとも、そういうことをわかった上でネットを利用していったほうがいい。
──ネットの特性を理解しておくということですね。
高野 サイバー空間はサプライチェーンリスクが高いことも、理解しておくべきだと思います。ネットでは情報が拡散しやすいため、サイバーリスクが生じると自らにも影響が及ぶ危険性が常にある。企業ならば、委託先や仕入れ先で問題が生じた場合、自社にも影響が及び、経営リスクとなるかもしれません。
個人レベルでいえば、SNSで拡散されたフェイクニュースをシェアしてしまったら、自らもそこに巻き込まれてしまうことになる。先ほどすぐに反応しないことが重要だと言いましたが、フェイクニュースをシェアしてしまうのは、考える時間を置いていないからだと思うんです。
ネットにずっと接していると、きちんと咀嚼(そしゃく)できずに情報の洪水に溺れていってしまう。ですから、時に情報を遮断して、じっくり考える時間をつくることも、ネットと付き合っていくコツだと考えています。
●高野聖玄(たかの・せいげん)
1980年生まれ。高校卒業後、フリーのウェブエンジニアを経て、大手ビジネス誌オンライン事業の立ち上げ、会員制経済誌の創刊に参画する。その後、企業や官公庁のサイバーセキュリティ対策などをサポートする専門企業、株式会社スプラウトを創業。現在、同社代表取締役社長を務める。新聞・雑誌への寄稿、テレビ・ラジオへの出演、講演など多数。共著として、サイバー闇市場を題材にした『闇(ダーク)ウェブ』(セキュリティ集団スプラウト著、文春新書)がある
■『フェイクウェブ』
文春新書 840円+税
21世紀になって急速に普及したインターネット。さまざまなサービスはわれわれの生活を豊かにしてくれているが、ネット空間には架空請求メール、クレカ不正利用、SNS乗っ取り、フェイクニュースなど、さまざまな危険が潜んでおり、必ずしも安全とはいえない。本書では、サイバー犯罪対策の第一人者であるセキュリティ集団「スプラウト」の高野氏が犯罪者の心理や巧妙な手口を徹底解説。複雑化した情報社会を生き抜く心得を伝授する!