東京五輪に「国を挙げて被災地を思い、復興のメッセージを国内外に伝えようとする気概は感じられません」

「大腸菌のレベルが基準値を大幅に超えた」と五輪競技の開催が危惧されている東京・お台場の海――。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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お台場の海がそんなに汚染されているとは知らなんだ。東京23区の8割の下水道は汚水と雨水が一緒に流れる「合流式」なので、大雨が降ったときには処理しきれず汚水もそのまま一緒に海に放出される方式なんですね。

汚水と雨水を別々に流す「分流式」は23区内で2割しか採用されていないとのこと。大雨時には糞便(ふんべん)も不十分な処理で海に流していたとは、23区民としてはかなりの罪悪感です。ここ数年は都心でもゲリラ豪雨が増えているし、汚水が海に放出される機会はこれからも増えるでしょう。

オリンピック本番では3重に水中スクリーンを張って大腸菌の流入を防ぐそうですが、五輪組織委員会は「あとは台風や大雨がないことを祈るのみ」というのだからなんとも心もとない。

アスリートたちは命の危険に関わるような暑さの中で汚水スイムのリスクを冒さなくてはならないのだから、お・も・て・な・しのかけらもありません。今からでも会場変更はできないものか。と思ったら、ツイッターでは"新島トライアスロン大会"が話題になっています。

確かに、新島でやればいいのに! 都心から高速船で2時間余りでめちゃくちゃきれいな海で泳げるとは素晴らしい。美しい新島の映像が世界に流れれば、ビルと人があふれかえるネオンの街トーキョーにこんなにきれいな海があるんだよ、という意外なアピールになります。観光客の誘致にもなるし、日本の豊かな自然を世界に発信するいい機会です。

それにしてもオリンピックは楽しみにしている人も多いし、ボランティア体験で学ぶこともあるだろうけど、やはり哲学のなさを感じてしまいます。

そもそもの「復興五輪」というストーリーは、開催まで1年を切っても描けないまま。選手村などで被災地とアスリートたちの交流を地道に深めているのはわかるけど、国を挙げて被災地を思い、復興のメッセージを国内外に伝えようとする気概は感じられません。

最近、畑中章宏さんの『死者の民主主義』(トランスビュー)という本を読みました。今ある社会は死者たちと共にあるのです。復興オリンピックと謳(うた)うからには、亡くなった1万5000人以上の方と一緒に迎える大会だという心構えが大事です。ちょうどお盆の時期でもありますし。

日本の大きな悲しみと喪失に世界中が手を差し伸べてくれたことへの返礼として、大切な人々への思いとともに前を向いて生きることを力強く提示する大会にしてほしいのです。まだ間に合うのか、もう手遅れなのか。

物事を決める人や、お金を使って形にする人たちに哲学がないことは、海の汚れ以上に悲しいことです。オリンピックはただのお祭りじゃなく、その国の知性と品格が露呈する場。開催まで1年を切って、胸騒ぎが止まりません

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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