「仕事の能力と女癖は別」という価値観がいまだに根強い日本の職場

『報道ステーション』(テレビ朝日系)のチーフプロデューサーが10人以上に及ぶ番組スタッフにセクハラを行ない、番組を解任された。氏は"テレ朝のドン"早河洋会長のお気に入り。まさに救いようがない。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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あれは昨年のこと。当時の福田淳一財務事務次官による自社の女性記者へのセクハラ問題で、テレビ朝日は財務省に抗議しました。

テレ朝は『報道ステーション』でもこの件を取り上げ、当時サブキャスターを務めていた小川彩佳アナが女性記者のコメントを代読。その中に「ハラスメントが繰り返されたり、被害を訴えることに高い壁がある社会であってほしくないと思います」という一節があったにもかかわらず、このほどその『報道ステーション』の前プロデューサーによる女性アナウンサーやスタッフに対するセクハラ事件が起きていたことが発覚しました。

福田元次官を告発した女性記者の思いはまったく生かされなかったばかりか、世間の信頼を大きく裏切る事態です。あの事件の後に、番組内で複数の女性に対するセクハラが行なわれていたとは、まるで「セクハラなんかで男の首が切れると思うなよ」と一連の動きに当てつけるかのような所業ではないですか。

社の上層部の覚えめでたい人物だったようですから、問題になることはないだろうと踏んでいたのか。そういう空気が社内にあったということなのでしょうか。気がかりです。

昨年、番組で女性記者のコメントを読み上げた小川アナは、自らも社内の体制や意識を憂うコメントを述べ、真摯(しんし)な姿勢が多くの共感を呼びました。

その小川アナを番組から外したのが件(くだん)のセクハラプロデューサーだと報じられています。もしそうなら、行動は一貫しています。女は賢(さか)しらに物を言ったりしないで、男の言うことを聞いていればいいんだと。

実際、言うことを聞かせることができると思うからセクハラをするのです。セクハラあるところにパワハラあり。男女にかかわらず、ほかにも職場で理不尽な目に遭って誰にも言えずにいる人がいるかもしれません。

今回の件で、前プロデューサーの処分は3日間の謹慎と関連会社への出向とのこと。ちなみにアメリカでは昨年、メディア大手CBSの会長がセクハラで辞任しています。

日本はハラスメントに対する処分が甘く、建前上はあってはならないこととしながらも、加害者は"ほとぼりが冷めたら"なんの問題もなく昇進することすらあります。「仕事の能力と女癖は別」という価値観がいまだに根強い日本の職場。でも、ハラスメント行為が人権侵害であることすら理解できないのだとしたら仕事の能力に難アリで、企業にとってリスクでしかありません。まして今回は報道機関ですから深刻です。

「セクハラ・パワハラをする人=仕事のできない人」という認識を浸透させるためにも、また被害を受けた女性たちが不利な扱いを受けないようにするためにも、組織としての厳格な対処が必要です。昨年の女性記者の言葉が今度こそ生かされますように。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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