子供は究極の私物であり「公共財」でもあるという矛盾した存在です

9月中旬から、赤ちゃんを抱っこする親の抱っこひものバックルを外されるという悪質な行為が各地で横行しているとのニュースが増加。タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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最近、赤ん坊の抱っこひものバックルを背後から外すという悪質ないやがらせが話題になっています。人混みなどで、気づかないうちに背中のバックルを外され、赤ちゃんが滑り落ちそうになったという体験談や目撃談があるのです。最悪の場合、命に関わる事故になりかねません。もはや、子連れに対するヘイトクライムです。

ベビーカーは邪魔とか保育園はうるさいとか、子連れで飛行機に乗るなという暴論が正論みたいな顔でまかり通る世の中。週プレ読者の中にも、正直子連れは目障りだと思っている人はいるでしょう。思い浮かぶのは、所帯じみた女性の姿ではないかと思います。

一方、自身が子育て中という男性もいるでしょう。子連れで街に出たときに、怖い目に遭ったり冷たい目を向けられた経験はありますか。おそらく「イクメンですね!!」「えらいですね」などと言われたことはあるでしょう。

多くの育児中の女性は、いつ誰に文句を言われるかと身構えています。「子育てしているなんてえらいですねえ」とわざわざ言ってくれる人はいません。妊娠中にマタニティマークをつければいやがらせをされ、荷物が多くて困っていても助けてもらえないことも。

わざとぶつかられたり、難癖をつけられたりする。育児の大変さをツイートすればクソリプがつく。なぜ、母親は攻撃されるのでしょうか。子連れに対する憎悪は女性蔑視や女性嫌悪と根深くつながっています。それは男性に特有のものではなく、女性が女性を軽んじて蔑(ないがし)ろにすることも珍しくありません。

「オンナコドモ」という言葉は、女性や子供は社会にとって重要でない、一人前ではない存在という意味で用いられます。子連れ女性というのはまさにそのような存在として扱われがちです。障害があるわけでも病気にかかっているわけでもないのに特別な配慮と理解を要求するなんて、オンナコドモのくせに生意気だと。

子供は究極の私物であり"公共財"でもあるという矛盾した存在です。母親には「おまえのセックスの成果なんかに他人の配慮を求めるな、邪魔だからちゃんと見張っとけ」という蔑(さげす)みの目線と、「子供は皆の財産でもあるのだから、しっかり管理しろよ」という領主さま目線が注がれます。それはまさに法的にも女性や子供が家長の男性の所有物だった時代のもの。

家制度なんてとっくになくなったのに、なぜか子持ちの女性に対しては家長や姑(しゅうと)みたいなマインドでいる人が少なくない。それは少子化を女性のわがままによる国力低下の文脈で語る政治家の発想に通底しています。個人の幸福より国家の威信。子連れヘイトはそんな誰もが個人として大切にされない社会のゆがみの表れだと思うのです。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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