平安絵巻のような装束の数々は本当に見事でした

今年5月の皇位継承に伴い即位した天皇陛下が、即位を国内外に宣言する「即位礼正殿の儀」が22日に皇居・宮殿で行なわれた。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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即位礼正殿の儀をテレビ中継で見ながら、私はもう二度とこの儀式を見ることはないかもしれないと思いました。人の寿命はわからないので、これが人生最後かもしれないからよく見ておこうと思ったのです。平安絵巻のような装束の数々は本当に見事でした。

十二単(ひとえ)姿の秋篠宮妃紀子さまは、黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)に身を包んだ天皇陛下をご覧になりながら、いつか悠仁(ひさひと)さまもこの日を迎えられることを母として思わずにはいられなかったでしょう。

男系男子のみが継ぐことができる皇統は存続の危機に瀕(ひん)しています。旧宮家の復活を声高に唱える人々もいますが、皇室制度の存続のために、誰かの人生をそう簡単に変えてしまっていいものかと思います。

それは愛子さまや悠仁さまも同じです。皇室存続のために女性天皇を認めるのか、さらには女系天皇をも認めるのか、その議論が決着しないうちは、すでに大学進学を控えてキャリアや人生設計を考えるご年齢である愛子さまもティーンエイジャーとなり、やはり学業など先々のことを考え始めるご年齢の悠仁さまも、ご自身の将来を思い描くのに大きな不安と混乱をお感じでしょう。

「皇室制度の存続」というと大ごとなことのようですが、そこに生身の人が一度きりの人生を生きていることをおろそかにはできません。

もしこの先、男性の天皇だけをつないで何世代も皇室が続いていったとしても、お子さまができない天皇や、同性を好きになる天皇が登場する可能性もあります。そんな想定は"不敬"だという人もいるでしょうけれど、そうしたことが起きない前提で皇統存続の議論をするのは現実的ではありません。

昔なら制度の存続のために「なかったこと」にできたでしょうけれど、皇族方もさまざまな情報に触れている上、ご自身の幸福についてお考えになる機会も多いでしょうから、この先の日本では時には難しいでしょう。

万世一系の血を守るためには天皇家には犠牲になってもらう、男系男子による継承を維持するためにはどんな理不尽も仕方がない、とするなら、いったいそれは誰のための皇室なのかと思います。

天皇が国民の統合の象徴であるなら、それはひとりひとりの命や幸福を大切にする社会を生きる人々が共感する存在であるということです。皇室の人々の犠牲の上に成り立つ天皇制は、果たして象徴としてそのような価値を体現しうるでしょうか。

もし真剣にこの先も皇室制度を存続させたいのであれば、どうしても生じてしまうこの大きな矛盾と向き合わざるをえません。本当に厳しい、複雑かつ真剣な議論なしにはもう進めないところに来ているのではないかと思います。

オリンピックも終えた来年の今頃は、いったいどのような議論になっているのか気がかりです。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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