人々の心のよりどころでもあった首里城の焼失は本当にやりきれません

10月31日未明に発生した火災により、世界遺産にも登録されている沖縄のシンボル首里城の正殿など主要施設が焼失。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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復元に33年の月日と総事業費約240億円をかけた沖縄の首里城の正殿など7棟が全焼しました。450年に及ぶ琉球王国の歴史と、太平洋戦争末期の沖縄戦の深い悲しみを経て今日に至った沖縄の歩みと、基地問題で今なお苦しむ人々のことを思うと、人々の心のよりどころでもあった首里城の焼失は本当にやりきれません。

その火災の最中に「あれは僕の失火が原因です」といったようなふざけた動画を投稿したユーチューバーがいました。当然猛烈な非難を浴びたのですが、こういう考えなしの投稿をするのはなぜなのでしょう。

「これぐらいやっても許されるだろう」と思った頭の悪さゆえと言えばそれまでなのですが、ネットによってこれまでは見えなかったミルフィーユ状の世界が見えるようになったのだと思います。

くだんのユーチューバーは首里城がどのような存在で、それが燃えることは何を意味していて、どれくらいのニュースになり人々にどのような感情を抱かせるのかということが読めず、それをネタ化することがどれほどひんしゅくを買うかがわからなかったのでしょう。そのように同じ空間でも全然違う感覚で生きている人の世界が何層にも積み重なっているんですよね。

似たようなことは約4ヵ月前にも起きています。YouTubeで人気のDJユニットが、Twitterと動画を使ってセクハラとパワハラのやらせをやって大炎上した件です。「最後はパワハラはダメだよ、っていうオチにするつもりだったし、みんな笑ってくれると思った」と釈明しているものの、ハラスメント被害の深刻さが広く知られるようになった今、笑える問題ではないことは明らか。

#MeTooやハラスメント関連のニュースに多くの人が注目しているなかで、なんかはやってるからこれに絡めればウケるだろうと考えた浅はかさにはあきれるばかりですが、これもSNSがつくり出したモンスターではなく、きっと昔からあった分断でしょう。

自分の世間と誰かの世間は違うし、自分のトップニュースと世間のトップニュースは違う。それでもこれまではマスメディアによって、世論らしきものや今一番大事な課題とされることが提示され、それに関心がない人の存在が公の場で可視化されることはありませんでした。

今は、誰でもメディアを持つことができるようになってその「じゃないほうの世界」が人目に触れるようになりました。「あいつらバカだから」で切り捨てるのは簡単。でも、もともと触れている情報が違い基礎的な知識や関心事が違う人たちとどうやって問題をシェアするかは、いわば多様性への耐性を試される場面でもあります。

「対話を」と言ってもそもそも用語解説から始める必要があります。「言うは易く、行なうは難し」ですね......。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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