あのポスターでつらい思いをする人がいないか想像することができなかったのは、それこそ頭が固いなあと思います

厚生労働省が推進するアドバンス・ケア・プランニング「人生会議」のポスターが「不謹慎だ」などの指摘を受け炎上に発展し、モデルに起用されていた吉本芸人の小籔千豊さんも謝罪する事態に。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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人にものを伝えるのは難しいですね。ちょっと前に炎上した「人生会議」ポスター。死の恐怖を煽(あお)り、ちゃかすような内容が批判され、厚生労働省は予定していた自治体へのポスター発送を中止。吉本興業との契約金がおよそ4000万円だったことも判明して騒ぎになりました。

私は昨年父を亡くしたこともあり、人生会議には大賛成です。自分がどのような最期を迎えたいかを普段から家族と話しておくといいと思います。急に倒れて意思確認ができない場合もありますから。

父の場合は普段から延命治療はしないでほしいと話していたのと、いわゆるエンディングノートを残してくれていたので、突然の別れでしたがすべてを父の希望に沿ってスムーズに進めることができました。それでもなお家族にはいろんな思いが残ります。

どんなに心の準備をしても、別れのときは後悔や葛藤が生じるもの。それを少しでも和らげて、穏やかなみとりを可能にするためにも「人生会議」は大事なことです。

とはいえ死についてなんて考えたくないし、親に勧めることもできないという人がほとんどでしょう。そんな及び腰の人や興味がない人にもしっかり伝える工夫が必要です。

おそらく、柔らかく物事を伝えることに対して苦手意識が強い官僚たちが「お笑いならきっと国民が興味を持ってくれるはず」と吉本興業に頼り、一方でポスターを作製した人々は実際にみとりの現場に立ち会う人たちの葛藤や後悔には鈍感で、あくまでもポスターとしての面白さを追求。「これぐらいしないと庶民は興味を持ってくれないかも」と思ったことは官僚も制作サイドも同じかもしれません。

結果、人生会議の本来の目的である、穏やかなみとりのために......というメッセージはまるで伝わらず、契約金バッシングにまで延焼してしまいました。厚労省の官僚たちも、大事なことをなんとしても伝えたい!という気持ちがあったからこそでしょうし、実際多くの役所のポスターは堅苦しかったりださかったりするので、心意気は正しかったのだと思います。

出来上がったものを見て「これはちょっと無神経だよな」と思わなかったのか。思ったけど、そんな自分の役人魂を堅物だと封じてしまったのか。難色を示したらクリエイティブな人々に「大衆はこれぐらいしないと理解できませんよ」とか言われたのか。わかんないけど、あのポスターでつらい思いをする人がいないか想像することができなかったのは、それこそ頭が固いなあと思います。

「人生会議しておかないと死ぬとき後悔するぞ!」じゃなくて、当人も家族も穏やかにそのときを迎えられるよ、と伝えればいいと思うけどなあ。笑いが取れなくても、本気の取り組みは伝わると思うぞ。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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