世界保健機関(WHO)は1月14日、中国・湖北省武漢市で広がっている正体不明のウイルス性肺炎について、コロナウイルスの遺伝子情報から「新型」が検出されたと発表した。
重篤な症状を引き起こすこの肺炎は、武漢市でこれまでに41人が発症し、重症者7人のうち61歳の男性ひとりが死亡。また、すでに同じ中国の深圳、さらに香港、マカオ、シンガポール、タイ、台湾などにまで広がっているとの説もあり、日本でも16日に武漢帰りの中国人の感染確認が発表された。
感染症に詳しい科学ジャーナリストの大宮信光氏が言う。
「死亡した武漢市の男性が業者として出入りしていたのは、海産物のほか鳥やヘビ、ウサギ、ネズミなどさまざまな動物を扱う巨大市場。その面積は5万平方メートルに及び、約1000店が軒を構える場所です。
同じく重症肺炎を起こすコロナウイルスには、2002年から03年に中国を中心として8069人が感染、775人が死亡したSARS(サーズ/重症急性呼吸器症候群)や、12年からサウジアラビアなどで2494人が感染、858人が死亡したMERS(マーズ/中東呼吸器症候群)があり、前者はコウモリ、後者はヒトコブラクダが感染源でした。
いずれも宿主の中で共存しているウイルスが種の壁を越えてヒトに感染すると、高熱が出て重症肺炎になります。今回はまだ感染源が特定されていない上、SARSでもMERSでもない新型ウイルスということで、その感染力や病原性の強さも計り知れません」
にもかかわらず、中国当局の情報公開の動きは鈍い。そもそも最初の患者が確認されたのは昨年12月4日だったが、武漢市がその事実を発表したのは同31日。また当初、武漢市はこのウイルスがヒトからヒトへ感染している可能性を否定してきたが、1月15日になって「可能性は否定できない」と立場を変えた。
長年ウイルスの研究に携わり、日本への侵入を防ぐ"防波堤"の役割を担ってきたある獣医学博士が警告する。
「ウイルス感染・増殖・発症にかかる必要条件が整えば、スピードや拡散域はともかく、ヒトからヒトへの感染が成立することは容易に考えられるでしょう。仮にヒト・ヒト感染が繰り返された場合、病原性が増したり、変異して肺以外の臓器で増殖が始まることもあるでしょうし、ほかの病原体との混合・複合感染で重症化する可能性もあります。
コロナウイルスへの感染では、喀痰(かくたん)、鼻汁、唾液、糞便(ふんべん)などからしばしばウイルスが検出される傾向があり、感染の拡大が懸念されます」
SARSのケースでは、10人以上への感染源となった"スーパー・スプレッダー"と呼ばれる患者がいた。今回もこうした患者が発生すれば、パンデミック(爆発的感染拡大)という最悪の事態を引き起こしかねない。
しかも、今月1月24日~30日は中国の大型連休である春節(旧正月)。国内だけで延べ30億人が移動し、海外にも約700万人が渡航するとされ、訪日客も数十万人に及ぶ。
それでも、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では重篤な肺炎症状を記した書き込みが削除されるなど、中国当局は情報統制に必死だ。各地へ感染が広がらないことを祈りたいが......。