1月25日、まとめサイトの「中国で日本の健康保険に悪乗りする方法が拡散......新型肺炎で中国人が押し寄せる危険性」という記事が拡散。しかし、観光による在留資格では国民健康保険を利用することはできない。ニュースサイト『BuzzFeed』が検証

ウイルスよりも早いスピードで世界中に拡散する新型コロナウイルス関連の「フェイクニュース」。

時に、無用な混乱や差別といった問題を起こしかねないデマの拡散と、われわれはどう付き合うべきなのか?

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■隔離や封じ込めも事実上不可能!

感染拡大が一向に止まらず、世界中を混乱に陥れている新型コロナウイルス。だが、それをしのぐ勢いで猛威を振るっているのが、隔離や封じ込めも事実上不可能な新型コロナウイルス関連の「フェイクニュース」だ。

爆発的拡散の背景には何があるのか? 誤情報や真偽不明の情報を検証する「ファクトチェック」の普及活動に取り組むファクトチェックイニシアティブ(FIJ)の事務局長で、弁護士の楊井人文(やない・ひとふみ)氏が語る。

「新たな感染症の流行に対する恐怖心、それに発生源である中国への『情報を隠しているのではないか?』という先入観が組み合わさって、誤情報が非常に拡散しやすい状況になっていると考えています」

楊井氏が続ける。

「誤情報の中には感染症に対する誤った理解を広めたり、世界各地で無用な混乱や差別などの深刻な問題を引き起こしかねないものもあり、非常に危険です。そのため、すでに世界各国のファクトチェック関係者が連携している国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)を中心に、新型コロナウイルスに関する誤情報の検証内容を共有するデータベースが稼働しています。

FIJでも2月3日に『新型コロナウイルス特設サイト』を開設し、検証済の情報や怪しいと思われる情報のリストを公開すると共に、情報提供も募っています」(楊井氏)

では、実際にどんなフェイクニュースが拡散しているのか? FIJで公開している情報を中心に紹介する。

2月の末から急激に広まったのは「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、トイレットペーパーが不足する」という噂。現実には国内で流通するトイレットペーパー生産の中国依存度は約2.3%に過ぎないにも関わらず、消費者がスーパーマーケットやドラッグストアに殺到。

ティッシュペーパーや飲料水、カップラーメンまでが一時的に店舗の棚から消えるという、まるで1970年代のオイルショック時のような状況を招いた(もちろん、外出する数を減らしたいという思いもあったはずだが......)。

また、医学的な根拠のないウイルスの危険性に関する情報や、感染予防法・治療法に関する誤情報の拡散も相次いでいる。

感染リスクに関わるものとしては一時「エアロゾル感染、空気感染が確認された」という情報も、まとめサイトなどから拡散したが、これも事実ではない。

さらに「新型コロナウイルスの再感染は致死的」「2回目に感染したときは死んでしまう」という情報(現役医師の投稿動画をきっかけに拡散)については、感染症の専門家で神戸大学教授の岩田健太郎医師がバズフィードジャパン・メディカルのファクトチェックの取材に対し「2回感染したという事例は(現時点で)1度も確認されていない。

検査で陰性になった後に陽性になったという人が2度目に感染したのかはまだ謎で、再感染より「再燃」(いったん減少したウイルスが再び増加すること)の可能性の方が高いと思います」と、そもそも「再感染」の事実が現時点では未確認であることを強調。「せめて『これはあくまで仮説だけど』ぐらいの言い方をするのが、良心的な医者の態度だと思います」と語っている。

一方、感染の予防法で、2月中頃から広く拡散したのは「コロナウイルスは熱に弱く、26~27度のお湯を飲むと殺菌効果がある」という情報だが、そもそも摂氏27度でウイルスが死滅するなら、人間の体内に入った時点で死滅することになる。

誤情報が拡散するのは海外も同様で、「8歳以下の子供の尿を飲めば感染を予防できる」(中国)、さらには「塩素系漂白剤と同じ成分の液体を飲むと致死性ウイルスが死滅する」(アメリカ)「大麻でウイルスを殺せる」(インド)など......。

これらはいずれも医学的に根拠がないだけでなく、一部は深刻な健康被害につながりかねないものもあるので十分に注意が必要。

■「陰謀論系」や「便乗型」も拡散中

もうひとつ、新型ウイルス関連で目立つのが「陰謀論系」や「便乗型」のフェイクニュースだ。日本でも「英紙デイリー・メールは武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だと報じた」「ウイルスは中国が開発した生物兵器の可能性もある」といった情報が依然として拡散中。

最近は「新型コロナウイルスにはHIVウイルスが挿入されていて、研究所で作られたものだとインドの研究者が主張している」というニュースもネットなどを中心に広まっている。

もちろん、新型ウイルスが「絶対に生物兵器ではない」とも断言はできないが、現時点でこうした情報が事実だという証拠はなく、ひとつの「説」や「未確認情報」に過ぎない。だが、そうした「未確認情報」が「実は生物兵器だ」という断定形に変化して拡散するというパターンは少なくない。

ちなみに、海外では「新しいウイルス株はビル・ゲイツ財団が特許を保有していて、ビル・ゲイツは流行と6500万人の死者を予測していた」(ドイツのフェイスブックで拡散)、「新型コロナウイルスはビル・ゲイツがワクチンを売りつけるための陰謀」(アメリカの反ワクチン団体や一部トランプ支持者に拡散)といった「ビル・ゲイツ犯人説」の陰謀論にも火がついているという。

こうした陰謀論系フェイクニュースが広まる背景には、新型コロナウイルスの流行に便乗して中国政府や特定の人物を攻撃し、そのイメージを傷つけようとする政治的な意図が隠れている場合もある。それが前述の「未確認予防法・治療法」と同様、人々の漠然とした不安や不満と結びつき、爆発的に拡散するのは現代のネット社会ならではの現象だろう。

■「一時停止」の習慣をつける

トンデモなフェイクニュースも次々に拡散している。

英紙「デイリー・メール」が中国では食用のタケネズミという意味もある「活樹熊」を生きたコアラだと決めつけ、「武漢市の市場ではコアラが食用として売られている」と記事に、また「中国の路上では人々が次々に倒れている」という写真付き(実際はドイツの芸術フェスティバルで撮影された、大勢の人たちが地面に寝転んでいる)の投稿がSNSで大拡散した。

さらに「新型コロナウイルスとは『ペスト』のことで、すでに950万680人が死亡した」(アメリカのインスタグラムで拡散)など、もはやフェイクニュースの「パンデミック状態」だ。

最後に「新型コロナウイルスに感染してもゾンビ化はしない」と、マレーシアの保健省が大真面目で否定したというニュースも報じられたが、これにはさすがに笑うしかなかった。

日々、ネット上に飛び交う大量の情報にさらされながら、フェイクニュースに振り回されないためには、どうすればいいのか? 前出の楊井氏に聞いた。

「未知の情報に出会ったら、それをいきなり信じたり、リツイートなどで拡散したりするのではなく、まずは立ち止まって考える『一時停止』の習慣をつけることが大切だと思います。

もちろん、自分ひとりで情報の真偽を確かめるのは簡単ではありませんが、FIJのファクトチェック情報を活用したり、情報の出典がどこなのかを可能な範囲で調べたりすることが誤情報の拡散を防ぐことにつながります。この機会にファクトチェックの重要性に理解が広がることを期待しています」

終わりの見えない「ウイルスとの闘い」は、同時にフェイクニュースとの闘い」でもある。だが、ネット上を飛び交うトンデモ情報に振り回されている場合じゃない。まずはウイルスとの闘いに集中!

※FIJの「新型コロナウイルス特設サイト」【https://fij.info/

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