被災地も感染症の流行に不安を抱く人々も置き去りにした、空虚な日本アピールの五輪になるのでは

3月26日から国内を走る聖火リレーは「復興オリンピック・パラリンピック」の題目のとおり、被災3県のひとつである福島県の「ナショナルトレーニングセンターJヴィレッジ」からスタートするが......。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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東日本大震災から9年。このほどNHKが岩手、宮城、福島の被災者約2000人に行なったアンケートでは、およそふたりにひとりが「今の復興の姿は思い描いていたよりも悪い」と答えています。東京オリンピック・パラリンピックが被災地にとって役立つと思わないと答えた人は3人にふたり。

以前ここでも書いたけど、なんのための「復興五輪」なんでしょうか。2020年東京オリンピック・パラリンピックは、政府としては世界に向けて「もうすっかり復興しています」とアピールするためのイベントなのでしょうが、「復興」とうたうからには亡くなった方々や被災された方々と共にあるべきだと私は思います。

震災によって命を奪われた1万5899人、行方不明2529人、合わせて1万8000人以上の犠牲者とそのご遺族、そして震災と原発事故の避難者およそ4万8000人。

被災地で家や仕事を失い、震災前とは暮らしが大きく変わってしまった多くの方々に心を寄せて迎えるオリンピックにしてこそ「復興五輪」。国内だけでなく広く世界の人々にも被災の実情を知ってもらい、震災から9年を経て復興が進むなかでも、悲しみを忘れることはないというメッセージを打ち出すことに意味があるのではないでしょうか。

地震や津波、火山の噴火、大型台風、洪水、干魃(かんばつ)、山火事など、大きな自然災害を経験した国はたくさんあります。日本国内にも、いまだ復興の途上にある地域が数多くあります。時とともに忘れ去られがちな被災地に光を当て、悲しみを分かち合い、亡くなった方々への哀悼の意と次世代への希望を語るオリンピックにするなら、今この時代に日本で開催する意義があります。

気候危機によって、この先自然災害は増えるといわれています。「環境を優先する2020年東京大会」という理念は、その文脈で語ることが必要では。世界中から共感と敬意を得るような哲学を示せば、日本に親しみが湧き、訪れる人も増えるでしょう。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のなか、今のところIOC(国際オリンピック委員会)も国も既定路線でいくようです。3月26日には聖火リレーがスタートします。 

スタート地点は原発事故の収束や廃炉の作業拠点となったスポーツ施設「Jヴィレッジ」。

昨年12月に福島県が発表した聖火リレーのルートは3日間で25市町村を走るものの、報道によると、廃炉作業の続く福島第一原発や除染廃棄物の仮置き場、人の戻らない市街地などは目に入らないとのこと。参加者の安全を考慮したとはいえ、事故から9年後の街を走る意味はなんなのでしょうか。

このままでは、被災地も感染症の流行に不安を抱く人々も置き去りにした、空虚な日本アピールの五輪になるのでは。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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