日本の刑法では、相手が性行為に同意していないことに加えて「暴行または脅迫」「抗拒不能」が立証できないと有罪になりません

実の娘に対する性的暴行の罪に問われた父に、名古屋高等裁判所は逆転有罪判決を下した――。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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このほどアメリカと日本で、性暴力に対する厳しい判決が下されました。

3月11日(現地時間)、米ニューヨーク州高位裁判所は、元ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏に対して禁固23年の実刑を言い渡しました。

罪状は、2名の女性に対する性暴力とレイプ。著名な俳優たちをはじめ、80名以上の女性がワインスタイン氏からセクハラや性暴力を受けたと告発しています。氏は裁判で「男性たちはこの結果に困惑している」と述べました。

結果は前例のない厳しい判決。被告の弁護側は上訴、ワインスタイン氏はこの後ロサンゼルスでも別の性暴力事件で裁かれます。

これは、性暴力被害者の声が信用された歴史的な判決です。性暴力事件では被害者が非難され、話を信じてもらえないことが珍しくありません。

日本でジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏による性暴力被害を告発したときも、伊藤さんはすさまじい2次被害を受けました。昨年12月の民事裁判の一審では、性的同意がなかったことが認められ、伊藤さんが勝訴しています(山口氏は今年1月に控訴)。

これまで、性暴力によって人生を壊され、ただ耐えるしかなかった女性たちがたくさんいます。アメリカではその声がSNS上で#MeTooムーブメントとなって世論を動かし、ニューヨーク・タイムズなどの粘り強い報道の成果もあって、今回の画期的な判決に至ったのです。

その翌日、3月12日には、日本の愛知県で実の娘への性的暴行の罪に問われた父親に対し、無罪とされた一審から一転して懲役10年の有罪判決が下されました。

一審では被害者は「著しく抵抗できない状態ではなかった」として無罪判決が下され、これに対して性暴力被害者たちがデモをするなどして抗議の輪を広げました。

名古屋高等裁判所は、被害者が実父から継続的に性的虐待を受けていたことや経済的な負い目を感じていたことを踏まえれば、心理的、精神的に抵抗できない状態(抗拒不能)だったことは認められると判断、検察の求刑どおりの有罪判決となりました(被告は上告)。

日本の刑法では、相手が性行為に同意していないことに加えて「暴行または脅迫」「抗拒不能」が立証できないと有罪になりません。これは被害の実態への理解を欠いた条件です。スウェーデンやドイツ、イギリスなどでは、被害者の同意のない性行為はすべてレイプとなります。

2020年は17年に改正された性犯罪に関する刑法の見直しの年。日本もそうした国々と同様の内容にするよう、刑法改正を求める声が高まっています。その声が聞き届けられることを切に願います。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。共著『足をどかしてくれませんか。――メディアは女たちの声を届けているか』(亜紀書房)が好評発売中

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